半藤一利氏を悼んで『ノモンハンの夏』を読んだ2021年01月14日

『ノモンハンの夏』(半藤一利/文春文庫)
 昨日(2021年1月13日)の新聞に半藤一利氏の訃報が載った。その著作のいくつかを共感を持って読んだので、惜しい人が逝ったと思った。90歳だったそうだ。未読のまま積んでいた次の本を追悼気分で読んだ。

 『ノモンハンの夏』(半藤一利/文春文庫)

 評判通りの名著である。1939年夏のノモンハン事件(日本側の死者2万の「戦争」)を欧州の動き(独ソ不可侵条約、ポーランド侵攻の直前)と絡めて描いた記録であり、日本を戦争・敗戦に導いた陸軍参謀たちの無能・無責任を剔出した怒りの書である。俎上の服部卓四郎・辻正信コンビは、いつの世にも登場しそうな人物像で、暗然とする。

 本書は「人は過去から学ばないことを思い知らされる。」という文で結ばれている。日本人必読の書だと思った。

 半藤氏の著書を初めて読んだのは30年近く昔の『漱石先生ぞな、もし』である。その冒頭の次の口上が印象深い。

 「(…)これにならっていえば、わたくしは「文獻院様(漱石)の長女の御嬢様が御嫁に行ってお生みになった第四女のお嬢さんを嫁さんにした男なんだって」である。」

 そういう血筋の人だと知ると同時に、粋を感じた。後日、この本以前に半藤氏の本を読んでいたことに気づいた。高校生の頃(1965年)に大宅壮一の『日本のいちばん長い日』を興味深く読んだ記憶がある。それから30年後の1995年、半藤一利著の『日本のいちばん長い日(決定版)』が出版され、あの本を執筆したのが文藝春秋の編集者だった半藤氏だと知った。

 『日本のいちばん長い日』を大宅壮一の作品と信じていた私は、驚くと同時に菊池寛を想起した。文藝春秋の創設者で作家の菊池寛は、無名作家の作品を菊池寛名で発表することがよくあったらしい。大宅壮一と半藤氏の場合は事情が違うと思うが、作者名を意匠とみなす文春の割り切った「経済的出版精神」に感服した。

 半藤氏はいい意味での文春らしい人だったと思う。熱狂を嫌う冷静、薩長を嫌う反骨、洒脱な江戸っ子気質などに、それを感じる。歴史への造詣は『歴史よもやま話』の池島信平(文藝春秋編集長、社長)ゆずりかもしれない。