芥川賞受賞作『ゾンビ回収婦』を読んだ2026年08月19日

 惰性のように芥川賞発表の『文藝春秋 2026年9月特別号』を購入し、受賞作を読んだ。

 『ゾンビ回収婦』(小砂川チト)

 RPG(ロール・プレインブ・ゲーム)、VR(ヴァーチャル・リアリティ)にAIを絡めた仮想異世界の話である。十数年前ならこの設定に魅了されたかもしれないが、もはや驚かない。そんな設定の映画や小説が増殖し、フツーになってしまった。

 でも、前回(2026年3月特別号)の受賞作2編よりは今回の受賞作の方が面白かった。現実世界の人物、ゲーム内のバーチャル人物、ゲーム開発者などの境界が崩壊して錯綜するという手法は、もはや目新しくはないだろうが、小説世界を拡張して紡ぎ出すメタフィクション的な技法には、まだまだ可能性があるように思える。器と中身のバランスだ。

 この小説で初めて知ったのがNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)という言葉である。「ゾンビ回収婦」もNPCだ。ゲームの世界のNPCという存在は、その意義を拡張して考察すれば興味深い存在に思えてくる。NPCに着目したのが受賞作の手柄かもしれない。

 この小説の設定は目新しいが、「働くこと」「承認欲求」「愛」など小説に込められた思いは伝統的だ。「これは凄い。新しい!」と度肝を抜かれ、魂を揺さぶられる作品ではない。文学界隈の秀逸な芸事作品のひとつに接したという気分だ。

 そんな読後感を綴りながら、私は自分の感性が摩滅しつつあるのではとも感じている。77歳の私には、現代の若い作家の作品を評価・鑑賞する能力がすでに失われているのかもしれない。人が小説に真に感動し心奪われるのは、未熟な経験がベースの不遜で瑞々しい感性をもつ10代・20代の頃だけのように思えてくるのだ。

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