マッカーサーやケネディも顔を出す『ガンジスと三日月(大世界史6)』2021年01月31日

『ガンジスと三日月(大世界史6)』(中村元・三橋冨治男/文藝春秋)
 河出版『世界の歴史』の『イスラム世界』に続いて、本棚に眠っていた文春版『大世界史』の次の巻を読んだ。

 『ガンジスと三日月(大世界史6)』(中村元・三橋冨治男/文藝春秋)

 河出版の1968年よりさらに1年前の1967年刊行の古い本で、前半(約3分の1)がインドの古代史、後半がイスラム史である。私の目当てはイスラム史だが、高名な仏教学者・中村元による前半も面白く読んだ。

 冒頭の総括的な章で中村元は「インドとイスラムは、本質的にはなにも似かよったところはない」としたうえで次のように述べている。

 「春秋の筆法でいえば、インドとイスラムは、ともに現代文明の母ともいいうるのである。その両者が、いまや代表的な後進国ということになっている。なぜか。それを理解するには、長い複雑な歴史を丹念にたどってゆくよりほかはない。」

 「後進国」という言葉に時代を感じるが、面白い切り口だ。裏返せば、西洋中心史観がどのように生まれたか、との視点になる。

 本書後半は、イスラム教成立の7世紀から20世紀初頭のケマル・アタチュルク(トルコ共和国初代大統領)までを点描風に記述している。イスラム史概説書の連続読書4冊目なので、多少は頭に入りやすい。というものの、大小さまざま王朝があちらやこちらで栄枯盛衰をくり返すさまは、やはりややこしい。

 本書には1960年代だなあと思わせる「たとえ」が出てくる。

 「イスラムの剣」と呼ばれた勇将ワリードがビザンティン帝国と戦っているとき、正統派カリフ2代目ウマルに突如として解任される。著者はこの解任を「朝鮮戦争の最中にトルーマンに解任されたマッカーサーを思わしめるものがある。」と表現している。

 また、セルジューク朝の名宰相ニザームル・ムルクが刺客に暗殺される場面では「ケネディ大統領の暗殺は二十世紀後半を震撼した大事件であったが、それにおとらず大宰相の暗殺も十一世紀末イスラム社会に大きな衝撃をあたえた。」と述べている。

 21世紀の目でマッカーサーやケネディの「たとえ」を検討しても無意味だ。不意打ちのような表現に出会えるのは、古い本の読書ならではの楽しさである。印象に残る。