『哲学と宗教全史』は読みやすくて面白い2021年01月08日

『哲学と宗教全史』(出口治明/ダイヤモンド社/2019.8)
 年頭に『未来の思想』(小松左京)を再読した際、1年ほど前に購入した次の未読本を想起した。

 『哲学と宗教全史』(出口治明/ダイヤモンド社/2019.8)

 やや分厚いが、『未来の思想』を敷衍する気分で読了した。とても読みやすくて面白い。安易な「早わかり本」ではなく、随所に著者独特の見解を述べている。博識な伯父さんの談話を興味深く拝聴している気分になる。

 人類3000年の歴史を「人間はどんなことを考えてきたか、その考えをいかに積み重ねてきたのか」という視点で語っている。『未来の思想』に似た人類の「思考」史であり、壮大な物語を感じた。

 本書には数多の宗教家・哲学者が登場し、彼らの考えや主要著書(&解説書)を概説している。私にとって、その大半は書名を知っているだけの未読の書である。

 本の虫を自認する著者の読書量と咀嚼力に、あらためて感嘆した。著者の出口氏は私と同世代である。著者の弁によれば、哲学書を本格的に読み始めたのは大学に入ってからで、最初に手にしたのがマルクスの『経済学・哲学草稿』だそうだ。そこまでは私と似た体験だが、その先が異なる。

 出口氏は「社会人になってからは、それほど哲学書を紐解くことはない」と述べているから、本書で紹介している古今東西の網羅的哲学書は学生時代に読破したようだ。私が学生時代に読んだのは片手で数えられる程だと思う。読みかけて挫折した書はもう少しありそうだが…

 哲学書とは青春時代にしか読めない書である。「眼前の世界をどう把握するか」「いかに生きるか」などの切実な思いが哲学書に向かい、若者特有の「見栄」も難解な哲学書に取り組む動機になる。切実な思いが消え、見栄も失せると、哲学書を読む意欲が減退する。

 年を取って哲学書を紐解く人もいると思うが、私は本書で著者の肩に乗って思想史の景色を眺めるだけで、とりあえず満足している。

 本書で面白く思ったのは、ヘレニズムの見方である。ギリシア文明が東方に浸透していったのではなく、豊かな文明をもつ東方世界へギリシアが進出し、「ポリスが空っぽになった時代」だとしている。19世紀以降の西洋中心史観の見直しである。「イスラム教にはギリシア哲学を継承し発展させた歴史がある」という見解も同様の主旨だ。

 世界史の景色は私が昔教わったイメージから変容しつつある。本書によって、あらためてそのことを認識できた。