挫折した巨大プロジェクトの現場の空気を感じた2025年12月31日

『バンダルの塔』(高杉良/講談社文庫/1984.3)
 『イラン現代史』『物語イランの歴史』に触発されて、次の小説を古書で入手して読んだ。

 『バンダルの塔』(高杉良/講談社文庫/1984.3)

 IJPC(イラン・ジャパン石油化学)を題材にした小説である。1979年のイラン革命の直後、新聞の見出しでIJPCという文字を何度も見た。三井物産を中心に日本の化学メーカー(東洋曹達、三井東圧、三井石油化学、日本合成ゴム)がイランに石油化学コンビナートを建設する壮大なプロジェクトだった。イラン革命の勃発で暗雲が立ち込め、巨額の損失を出してIJPCは清算される。

 この小説の単行本が出たのはイラン革命から2年後の1981年、きわものに近い小説だ。文庫版が出たのはイラン革命後のイラン・イラク戦争中、1984年だ。文庫版の解説で、佐高信は「新しい形で、日本はイランに協力することになって、現在、百名を超える日本人が現地に行き、数回に及ぶ爆撃による被害の調査を行なっている。」と希望的見解を述べている。しかし、文庫版が出た5年後の1989年、三井物産はIJPCの清算を発表する。6000億円以上をつぎ込んだプロジェクトは潰えた。

 77歳の私には久々の高杉良の経済小説だった。現役時代、企業の現場を生々しく描く高杉良の企業人小説に身につまされる思いをしたこともある。この小説を読んで、昔のそんな気分が甦った。

 この小説、企業名は実名だが、主人公らの登場人物は複数のモデルを合成したフィクションらしい。パーレビ体制の安定を疑う人はほとんどいなかったが、巨大プロジェクト推進のリスクを懸念する人はいた。さまざまな困難をひとつずつ乗り越えて奮闘する姿は感動的でもある。日本の高度成長末期の企業現場の元気な雰囲気が伝わってくる。

 イランに赴任して一年八カ月の日本人がイラン人について「狡猾で、狡知にたけてるが、自分のことしか考えない人種です」と述懐する場面が印象に残った。一部の人間から全体を論じるのは乱暴だとは思うが、文化や考え方の違いを克服する困難を感じた。

 イラン革命勃発時、コンビナートは完成目前だった。工事現場で約5千人が働いていた。日本人は3千人以上いた。だが、イラン側のトップがいち早く海外へ脱出するなど事態は急展開する。総引きあげとなった現場の無念に思いを馳せた。

P.S.
 実は、私は来年2月下旬からイラン観光旅行をすることになった。『イラン現代史』や『物語イランの歴史』を読んだときは、まだ旅行検討中だった。これから、イランについて情報収集せねばと思い、その一環でこの小説を読んだ。