『ローマ人の物語』の最終巻を7年ぶりに再読 ― 2018年12月12日
ふとした気まぐれで塩野七海の『ローマ人の物語』の最終巻を読み返したくなった。この本を読了したのは7年前、ギボンの『ローマ帝国衰亡史』(全10冊)を読了したのが4年前、すでに内容の大半は蒸発している。年末が近づき、西ローマ帝国滅亡の経緯を再確認したくなったのだ。
『ローマ世界の終焉(上) ローマ人の物語(41)』(塩野七生/新潮文庫)
『ローマ世界の終焉(中) ローマ人の物語(42)』(塩野七生/新潮文庫)
『ローマ世界の終焉(下) ローマ人の物語(43)』(塩野七生/新潮文庫)
『ローマ人の物語』(全15巻)の15巻目『ローマ世界の終焉』は文庫本だと(41)(42)(43)の3冊である。7年ぶりに読み返して、やはり塩野七生は歯切れがよくて読みやすい と感じた。5世紀を描く最終巻になってもBC1世紀に活躍したカエサルへの言及が多いのは塩野七生らしくて微笑ましい。女性を観る目が辛辣なのも面白い。
ギボンは5世紀の西ローマ帝国滅亡後も延々と15世紀の東ローマ帝国滅亡までを書き続けたが、塩野七生は東ローマ帝国は「ローマ世界」とは別種のものとの認識で西ローマ帝国滅亡で擱筆した……そう思いこんでいた。だが、再読してみると塩野七生も西ローマ帝国滅亡後に言及してた。
文庫本3冊の2冊目で西ローマ帝国は滅亡し、3冊目はその後の話になっている。私がかん違いしていたのは、西ローマ帝国滅亡の描写が印象的だったからだ。それは次のような描写である。
「ローマ帝国は、こうして滅亡した。蛮族でも攻めて来て激しい攻防戦でもくり広げた末の、壮絶な死ではない。炎上もなければ阿鼻叫喚もなく、ゆえに誰一人、それに気づいた人もいないうちに消えうせたのである。
(…)
燃えつきはした。だがそれは、火炎によってではなかった。
滅びはした。だが、阿鼻叫喚ととともに、ではなかったのである。
誰一人気づかないうちに、滅びたのであった。」
『ローマ世界の終焉』はキリスト教を国教に昇格させたテオドシウス「大帝」が亡くなって二人の息子が東ローマと西ローマを受け継いだ時点で始まる。そして、文庫本で3冊目の「第3部 帝国以後」では西ローマ帝国滅亡後を描いている。この、私が失念していた3冊目が意外に面白かった。
476年、西ローマ皇帝は蛮族出身の将軍オドアケルによって退位させられ、オドアケルがイタリア王となって西ローマ帝国は消滅する。それからの約半世紀は「パクス・ロマーナ」ならぬ「パクス・バルバリカ」の時代で、ローマに暮らす人々は蛮族王支配のもとで平穏に暮らしていた。その平穏を打ち壊してローマという都市を疲弊させ「ローマ世界」を終焉させたのは、西ローマの奪還を試みた東ローマだった。皮肉な話である。
イスラムによって東ローマも縮小し、地中海が「内海」から「境界」に変わったとき、ローマ世界は終焉したという見解はわかりやすくて納得できる。
『ローマ世界の終焉(上) ローマ人の物語(41)』(塩野七生/新潮文庫)
『ローマ世界の終焉(中) ローマ人の物語(42)』(塩野七生/新潮文庫)
『ローマ世界の終焉(下) ローマ人の物語(43)』(塩野七生/新潮文庫)
『ローマ人の物語』(全15巻)の15巻目『ローマ世界の終焉』は文庫本だと(41)(42)(43)の3冊である。7年ぶりに読み返して、やはり塩野七生は歯切れがよくて読みやすい と感じた。5世紀を描く最終巻になってもBC1世紀に活躍したカエサルへの言及が多いのは塩野七生らしくて微笑ましい。女性を観る目が辛辣なのも面白い。
ギボンは5世紀の西ローマ帝国滅亡後も延々と15世紀の東ローマ帝国滅亡までを書き続けたが、塩野七生は東ローマ帝国は「ローマ世界」とは別種のものとの認識で西ローマ帝国滅亡で擱筆した……そう思いこんでいた。だが、再読してみると塩野七生も西ローマ帝国滅亡後に言及してた。
文庫本3冊の2冊目で西ローマ帝国は滅亡し、3冊目はその後の話になっている。私がかん違いしていたのは、西ローマ帝国滅亡の描写が印象的だったからだ。それは次のような描写である。
「ローマ帝国は、こうして滅亡した。蛮族でも攻めて来て激しい攻防戦でもくり広げた末の、壮絶な死ではない。炎上もなければ阿鼻叫喚もなく、ゆえに誰一人、それに気づいた人もいないうちに消えうせたのである。
(…)
燃えつきはした。だがそれは、火炎によってではなかった。
滅びはした。だが、阿鼻叫喚ととともに、ではなかったのである。
誰一人気づかないうちに、滅びたのであった。」
『ローマ世界の終焉』はキリスト教を国教に昇格させたテオドシウス「大帝」が亡くなって二人の息子が東ローマと西ローマを受け継いだ時点で始まる。そして、文庫本で3冊目の「第3部 帝国以後」では西ローマ帝国滅亡後を描いている。この、私が失念していた3冊目が意外に面白かった。
476年、西ローマ皇帝は蛮族出身の将軍オドアケルによって退位させられ、オドアケルがイタリア王となって西ローマ帝国は消滅する。それからの約半世紀は「パクス・ロマーナ」ならぬ「パクス・バルバリカ」の時代で、ローマに暮らす人々は蛮族王支配のもとで平穏に暮らしていた。その平穏を打ち壊してローマという都市を疲弊させ「ローマ世界」を終焉させたのは、西ローマの奪還を試みた東ローマだった。皮肉な話である。
イスラムによって東ローマも縮小し、地中海が「内海」から「境界」に変わったとき、ローマ世界は終焉したという見解はわかりやすくて納得できる。
コメント
_ フェンク・シバノ ― 2022年03月12日 23時24分
_ 神登山 ― 2022年03月13日 22時07分
塩野さんの『ローマ人の物語』、いつの日か全巻を一気に再読して千数百年の歴史を辿ることができればと夢想しています。
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最終巻の当巻を書店で見た時はもう眩暈に襲われるようでした。とくに前半ではせめて10巻ぐらいまでは無事で、と思ったり、後半になればなんとか最終巻まで・・・とこれは完結後15年も経過すれば笑い話ですが、現在進行形の時には切実でした。
主さまが失念しておられたという最終部分の方が、私には印象が強く残っております。
「帝国以後」という、西ローマ帝国部分の残骸が解体していく過程を扱ったパートは、創成期に500年をかけて進めたイタリア半島が100年たらずで瓦解していく過程で、千年を経過してまた元に戻ってしまったのかという諸行無常の詠嘆でした。
完結とともに塩野先生の作品とも離れてしまい、また15年が経過しましたが、このブログを拝見して、当時どきどきと待ちわびていた日々の楽しさを思い出しました。
ありがとうございました。