シェイクスピアの翻案劇『昭和から騒ぎ』は面白い2025年05月26日

 世田谷パブリックシアターでシスカンパニー公演『昭和から騒ぎ』(原作:シェイクスピア、翻訳:河合祥一郎、翻案・演出:三谷幸喜、出演:大泉洋、宮沢りえ、竜星涼、松本穂香、峯村リエ、松島庄汰、高橋克実、山崎一)を観た。シェイクスピアの喜劇を戦後の鎌倉を舞台に翻案したラブコメである。

 私はこれまで『から騒ぎ』の舞台を観たことはない。今回の観劇に先立って河合祥一郎訳の原作を読んだ。二組の恋愛を描いた喜劇である。

 一組目は互いにののしり合っている口達者で気の強い男女だ。男と女は周囲の計略で互いに「相手は本当はあなたに恋している」と吹き込まれ、最終的には恋が成就してしまう。内心では好きなのに会えば罵倒するという心理は有り勝ちで、普遍的なコメディの構造だと思う。

 もう一組の恋愛は、相思相愛の若いカップルの男が、悪い知人から「君の相手には別の愛人がいる」と聞かされ、それを信じてしまう話だ。はやい話が間抜けな男の話である。

 『昭和から騒ぎ』は原作のストーリーをほぼそのままに、登場人物を原作の約20人から8人に減らし、1時間45分のテンポのいいコメディにまとめている。一組目の男女を演じる大泉洋と宮沢りえの芸達者に魅了された。

 登場人物を減らしているので、原作の複数の人物を一人にまとめたりしている。山崎一が演じる巡査は、原作の悪人と善人を一人にしているので支離滅裂な変な人物である。そこから新たな喜劇の要素が生まれているのに感心した。

 原作には、現代のわれわれが見てかなり不自然な設定がある。シェイクスピア作品に有り勝ちな強引な無理筋である。そんな設定は、翻案劇では省略か改変しているだろうと想定した。だが、この芝居はそんな無理筋を採用し、役者の台詞でうまく切り抜けている。主人公(大泉洋)は「ひねくり過ぎでしょう」「そんなややこしいことを…」などの台詞で事態の展開を批判しながら無理筋の状況に巻き込まれていく。メタフィクション的コメディとも言える。面白かった。

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