辻村深月の13年前の直木賞受賞作を読んだ2025年11月10日

『鍵のない夢を見る』(辻村深月/講談社文庫)
 先日、辻村深月の『島はぼくらと』と『傲慢と善良』を面白く読んだ。この作家の小説を読むのは初めてだった。他の作品も読んでみようと思い、次の文庫本を読んだ。

 『鍵のない夢を見る』(辻村深月/講談社文庫)

 2012年上半期の直木賞受賞作である。32歳での受賞だった。短編5編から成る短編集で、それぞれのタイトルに「泥棒」「放火」「逃亡者」「殺人」「誘拐」などの単語が含まれている。事件簿のような構成だが、全体のタイトルは『鍵のない夢を見る』と抽象的だ。それぞれが独立した短編で、連作とまでは言えないが、現代の若い人々の生活に潜む苦さを抽出するテイストは共通している。人の心理を追究する短編群である。

 いずれの短編もよくできていると思う。だが私は、本作よりは先日読んだ2作品の方が面白かった。30代女性の心理の綾を綴った短編は、70代高齢者男性の私にとっては多少うんざりする世界である。気持はわからなくはないが、そんなことどうでもいいではないかという気分にもなる。

 突き放した気分になるのは、感性が摩耗した鈍感力のせいだとは思う。内向する息苦しさを突き詰めることに意味はあるだろう。だが、その息苦しさに留まり続けられないと認識せねばならないと感じる。

 この短編集が人間の心理を巧みに抽出しているのは確かだ。それは、これから始まる何かの予兆の提示であり、物語はまだ始まっていない。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
ウサギとカメ、勝ったのどっち?

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://dark.asablo.jp/blog/2025/11/10/9816192/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。