戦争をリアリズムで考える「地政学」は苦い2026年01月18日

『日本人のための地政学原論』(橋爪大三郎/ビジネス社/2026.1)
 地政学には前世紀の遺物のウロンな「学問」というイメージがある。だが、書店に地政学コーナーができていて、いくつかの本が並んでいた。そのなかの次の1冊に興味がわいた。

 『日本人のための地政学原論』(橋爪大三郎/ビジネス社/2026.1)

 私と同世代(団塊世代)の社会学者・橋爪大三郎の著書は『はじめての構造主義』『世界は四大文明でできている』など何冊か読んでいる。本書と関連するのは『戦争の社会学』だろう。印象に残っているのは、橋爪氏が編者の『小室直樹の世界』収録の対談での橋爪氏の次の発言だ。

 「どうも私は、自分のノーマルな部分に退屈しているので、ちょっと危ない知性にひかれる傾向があるみたいです。」

 そんな橋爪氏が、ちょっと危ない感じががする「地政学」を概説したのが本書である。巻末の「おわりに」では次のようの述べている。

 「最近ビジネスかいわいで「地政学」が話題だという。何冊か見たがピンと来ない。それなら自分で教科書を書こう。そう決めて、2025年9月に原稿を書き始めた。(…)勤務先の大学院大学至善館では野田智義学長はじめ、いろいろな皆さんからいつもビジネス現場の熱気を伝えていただいている。この環境がなかったら、本書は書けなかったろう。」

 橋爪氏は東工大教授を退任した後、大学院大学至善館の教授になっている。この学校については、知り合いの若いビジネスマンから面白いビジネススクールだと聞いたことがある。彼は勤務先の企業から派遣されて、業務のかたわらこの大学院大学に通っていた。単なる米国風のMBA養成ではなく、アジアの文化、哲学、思想などリベラルアーツにもウエイト置いているそうだ。竹田青嗣西研平田オリザなども教授に名を連ねている。

 本書は、そんなビジネススクールの教材の一つかもしれない。学者の著作というよりは教育者の著作である。

 地政学とは「戦争が起こったらどうなるか」をリアリズムで考えることであり、地理学、軍事学、国際関係論などを土台にしている。ちゃんとした学問とは言えないが、土台となる諸学を踏まえなければ、地政学を理解することも、使いこなすこともできない。戦争の気配が近づくと地政学がブームになる。

 戦争はイヤだが、無視すれば済むものではない。地政学も無視すればいいというものではない。本書を読んで、国家とは戦争をするものだという苦いリアリズムの認識を得た。

 地政学を習得したからと言って、世界への対処方法の正解が得られるとは限らない。本書にも「……悩ましい問題である」「……今後に注目したい」「……読み切れない」などの述懐がある。

 と言っても、さまざまな知見をベースに合理的な正解を追究する営為は必要だ。19世紀以降のさまざまな戦争を検討している本書は、地政学を十分に理解していなかった故に過去の指導者たちが犯した判断ミスをいろいろ指摘している。

 太平洋戦争の開戦において、日本には政略も軍略もなく、最後通牒と言われたハルノートを読解できず、戦争に突入してしまったとの指摘にナルホドと思った。中国のナショナリズムは日本が育んだとの見解も、社会学的で面白い。

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