『十字軍という聖戦』はやや学術的な概説書 ― 2026年05月11日
十字軍に関する次の本を古書で入手して読んだ。
『十字軍という聖戦:キリスト教世界の解放のための戦い』(八塚春児/NHKブックス/2008.2)
著者は1951年生まれの西洋中世史研究者、18年前に出たNHKブックスである。一般向け概説書のつもりで読み始めたが、少し勝手が違う。十字軍研究の歴史や史料批判などから始まり、大学の講義のようでもある。十字軍に関する一応の知識がある読者を想定していると思える。
本書の「はじめに」では、少年十字軍がどのように語られてきたかを話題にしている。少年十字軍が奴隷商人に騙されてエジプトに売られたという話は虚構らしい。著者は、史料で確認できることと伝説との峻別を説き、1960年代に出た中公版『世界の歴史3 中世ヨーロッパ』(堀米庸三)の少年十字軍に関する記述を「一般的な伝説を無批判に踏襲するだけ」と批判している。
大学講義風は冒頭の3章「第1回十字軍の招集」「教皇の意図」「十字軍思想の形成」までで、それ以降は解説風で読みやすい。
著者が冒頭で史料批判に基づいて論じているのは、クレルモン会議で教皇ウルバヌスは何を語ったか、会議でのウルバヌス演説にどれほどの影響力があったか、ウルバヌスはエルサレム解放を意図していたか、教皇特使アデマールの実際の役割はどの程度だったか……などなどである。一般読者の私から見れば些細な議論にも感じられるが、研究者の関心のありようが窺えて興味深い。
本書は、現代の研究者たちが従来の見解とは異なる見方をしている事例をいろいろ紹介している。民衆十字軍のユダヤ人迫害の背景解説は、先日読んだ『ユダヤ人の歴史』に重なり、ナルホドと思った。十字軍は回を重ねるごとに本来の姿から逸脱していったという見方の誤りなども得心できた。
交渉によってエルサレムを無血奪回したフリードリヒ2世については「寛容と平和主義の精神による紛争解決の例として高く評価する論者も多い。しかし、実際はあまり過大に評価すべきではない」とし、その論拠をいくつか挙げている。フリードリヒ2世ファンの私としては少々残念だが、史料批判に基づく研究者の見解には重みがある。
『十字軍という聖戦:キリスト教世界の解放のための戦い』(八塚春児/NHKブックス/2008.2)
著者は1951年生まれの西洋中世史研究者、18年前に出たNHKブックスである。一般向け概説書のつもりで読み始めたが、少し勝手が違う。十字軍研究の歴史や史料批判などから始まり、大学の講義のようでもある。十字軍に関する一応の知識がある読者を想定していると思える。
本書の「はじめに」では、少年十字軍がどのように語られてきたかを話題にしている。少年十字軍が奴隷商人に騙されてエジプトに売られたという話は虚構らしい。著者は、史料で確認できることと伝説との峻別を説き、1960年代に出た中公版『世界の歴史3 中世ヨーロッパ』(堀米庸三)の少年十字軍に関する記述を「一般的な伝説を無批判に踏襲するだけ」と批判している。
大学講義風は冒頭の3章「第1回十字軍の招集」「教皇の意図」「十字軍思想の形成」までで、それ以降は解説風で読みやすい。
著者が冒頭で史料批判に基づいて論じているのは、クレルモン会議で教皇ウルバヌスは何を語ったか、会議でのウルバヌス演説にどれほどの影響力があったか、ウルバヌスはエルサレム解放を意図していたか、教皇特使アデマールの実際の役割はどの程度だったか……などなどである。一般読者の私から見れば些細な議論にも感じられるが、研究者の関心のありようが窺えて興味深い。
本書は、現代の研究者たちが従来の見解とは異なる見方をしている事例をいろいろ紹介している。民衆十字軍のユダヤ人迫害の背景解説は、先日読んだ『ユダヤ人の歴史』に重なり、ナルホドと思った。十字軍は回を重ねるごとに本来の姿から逸脱していったという見方の誤りなども得心できた。
交渉によってエルサレムを無血奪回したフリードリヒ2世については「寛容と平和主義の精神による紛争解決の例として高く評価する論者も多い。しかし、実際はあまり過大に評価すべきではない」とし、その論拠をいくつか挙げている。フリードリヒ2世ファンの私としては少々残念だが、史料批判に基づく研究者の見解には重みがある。
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