『イスーラム帝国のジハード』は現代を考える書2021年01月24日

『イスーラム帝国のジハード(興亡の世界史)』(小杉泰/講談社学術文庫
 イスラーム史勉強のために読んだ『イスラーム世界の興隆(世界の歴史8)』の記憶が残っているうちに、次の概説書も読んだ。

 『イスラーム帝国のジハード(興亡の世界史)』(小杉泰/講談社学術文庫)

 似た題材の2冊目なので頭に入りやすい。用語の表記が前著と異なっているのは著者ごとの流儀だろう。(メッカ→マッカ、コーラン→クルアーン etc)

 この文庫本の原本は2006年刊行で、著者の専門はイスラーム思想史だそうだ。本書は歴史の概説書であると同時に、イスラームの宗教・社会・国家の原理を考察・解説した書だった。

 「はじめに」で、7~10世紀を扱っているとあったので、先に読んだ『イスラーム世界の興隆』より射程が短く、アッバース朝までの歴史概説と思った。それが大違いだった。

 全10章の第7章あたりまでで、アッバース朝による広大なイスラーム帝国の成立までを描き、後半では趣が変わる。「イスラーム世界とは? ジハードとは?」という考察を軸に、その後約千年の歴史を概説し、記述は現代にまで及ぶ。数次の中東戦争、1979年のイラン革命、ソ連のアフガニスタン侵攻などを詳しく解説し、2001年の9.11同時多発テロとその後を分析している。実に射程が長い。

 本書を読了すると、21世紀のイスラームの情況を解説・分析するために7世紀から現代にいたるイスラーム世界を思想的に検討した書に思えてくる。歴史概説書であると同時に、イスラーム論である。「ジハード」の多様な意味も詳しく解説している。

 イスラームは国家と切り離すことが難しい宗教である。しかも、イスラーム法をベースに国家を超えたイスラーム社会が存在する。

 20世紀半ば、イスラームは近代国家によって世俗化していくかに見えた。だが、それは間違いだった。21世紀は不透明な難題をかかえていると認識した。

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