『イスラーム世界の興隆』を読み、かつての東方文明優位を確認2021年01月22日

『イスラーム世界の興隆(世界の歴史8)』(佐藤次高/中央公論社)
 私の関心領域であるローマ史や中央アジア史の本を気ままに読んでいると、アラブ方面のイスラーム史の知識が自分に欠けていると痛感する。一通り読んだはずの高校世界史レベルの内容もあやふやである。頭の中でぼんやりしているイスラーム史の霞を多少は晴らそうと、次の本を読んだ。

 『イスラーム世界の興隆(世界の歴史8)』(佐藤次高/中央公論社)

 イスラーム教が成立した7世紀から、エジプトのマムルーク朝が消滅する16世紀までのイスラーム史の概説書である。メッカで誕生したイスラム教が紆余曲折を経ながら東へ西へと拡大していく物語は面白い。馴染みが薄くて覚えにくい固有名詞(人名やイスラーム用語)の頻出が悩ましいが、これは慣れて馴染んでいくしかない。

 本書全般を通して随所に登場する人名がイブン・ハルドゥーンである。イスラム世界を代表する思想家・歴史家で、高校教科書でも重要人物として扱われている。私は今回やっとこの人物を認識できた。

 ぼんやりとしか認識できてなかった色々な事柄が本書によって明確になり、勉強になった。そのいくつかを羅列すれば以下の通りである。

 ◎イスラーム教は砂漠の宗教ではなく商人たちの宗教である。

 ◎「コーランか剣か」はキリスト教世界のねつ造で、ムスリス軍は征服地の住民に改宗を強制していない。

 ◎8~9世紀のイスラーム社会では他地域に先駆けて高度な貨幣経済が発展した。

 ◎10世紀の世界の三大都市はコンスタンティノープル、バグダード、コルドバ。

 ◎アラブ人の知的好奇心は旺盛で、多くのギリシア語文献をアラブ語に翻訳し「知恵の宝庫」を作った。

 本書が扱っている時代、西欧は後進国でイスラーム世界が文明国だった。イスラーム諸国にとって十字軍は蛮族の襲来であり、西欧人はイスラーム文明に触れることでギリシアの哲学や文学を知る。かつては、イスラームが先生で西欧が生徒だったのだ。

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