シャーロック・ホームズ全編読み返し第1弾2024年04月12日

『緋色の研究』『四つの署名』『シャーロック・ホームズの冒険』(コナン・ドイル/日暮雅道訳/光文社文庫)
 シャーロック・ホームズ派生小説『シャーロック・ホームズの凱旋』を読み、久々にワトソンが語るホームズの世界に触れ、懐かしきホームズ正典全60編を読み返したくなった。書架には延原謙訳の黄ばんだ新潮文庫があるが、読み返すなら新訳で読みたい。ネットで物色し、光文社文庫の『新訳シャーロック・ホームズ全集』を入手した。

 この全集の訳者・日暮雅道氏はシャーロキアンのようだが、マニアックな注釈は避けて基本的な注釈だけを付している。『ストランド』誌掲載のシドニー・パジェットの挿絵もかなり収録している。手頃な全集だ。

 ホームズ正典は短編集5冊、長編4冊の計9冊である。読み返すと言っても9冊一気ガツガツ読書では興ざめしそうだ。他の読書の合間に、ゆったりした気分で3冊ずつ読み返すのがいい。読む順番は正典の刊行順にしたい。19世紀の読者の気分を追体験できるかもしれない――ということで、まず次の3冊を読んだ。

 『緋色の研究』(コナン・ドイル/日暮雅道訳/光文社文庫)
 『四つの署名』(コナン・ドイル/日暮雅道訳/光文社文庫)
 『シャーロック・ホームズの冒険』(コナン・ドイル/日暮雅道訳/光文社文庫)

 やはり、ホームズ物は読みやすくて面白い。醒めた目で見れば、設定や展開にツッコミ所は多いが、ワトソンが語るクラシックな雰囲気を楽しむ本である。

 ホームズと言えば緻密な観察に基づいた抜群の推理力が魅力であり、手品の種あかしを見る面白さがある。だが読み返してみると、推理小説というよりは冒険小説に近い。

 ホームズは頭も使うが体も使う。プロボクサーなみの腕力や拳銃を活かすだけでなく、並外れた変装術によって事件を解決する。にもかかわらず、ホームズのイメージはパイプをくゆらせながら思索にふける名探偵である。この人物造形の妙に魅せられてしまう。

 第1作目の『緋色の研究』は、ワトソンとホームズの出会いを描いているのが最大のポイントの長編である。ワトソンがホームズの文学・哲学・天文学に関する知識をゼロと評価しているのが面白い。

 第2作目の『四つの署名』は冒険小説の要素が大きい。この小説には、ワトソンがメアリー・モースタンに出会い、互いに恋愛感情をいだき、最後には結婚に至るというサブストーリーがある。読み返してみて、恋愛小説のウエイトが意外に大きいと気づいた。ワトソンとメアリーの結婚に対してホームズが憮然と「ぼくは絶対におめでとうとは言えないね」と語るのが面白い。

 2つの長編を発表した後、『ストランド』誌への短編連載が始まる。『シャーロック・ホームズの冒険』は12編の短編を発表順に配列している。小説として面白いのは、やはり『赤毛組合』『唇のねじれた男』である。

 冒頭の『ボヘミアの醜聞』は、女嫌いのホームズが魅せられた唯一の女性アイリーン・アドラーが登場する有名作だ。この作品が短編第1作だったとは、私には意外だった。この事件はホームズの完全勝利ではない。

 ホームズ物はベーカー街221Bにホームズとワトソンが同居しているというイメージが強い。だが、最初の短編集の頭から9作目までは、ワトソンがホームズとの同居をやめた後の話になっている。『緋色の研究』で同居を始め、『四つの署名』で結婚したのだから当然かもしれないが、これも私には意外だった。

 コナン・ドイルは、当然のなりゆきでワトソンとメアリー・モースタンが結婚した後の物語を綴ったのかもしれないが、それぞれの事件に付された年代などから、ワトソンはいったい何度結婚したのだとシャーロキアンは悩むことになる。本書の注釈はそんなトリビアルには踏み込んでいない。

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