宗教社会学で世界読み解く『世界は四大文明でできている』2024年04月29日

『世界は四大文明でできている』(橋爪大三郎/NHK出版新書)
 たわむれに『世界は〇〇でできている』という書名を検索して、山ほどの○○があるのに感嘆し、そのなかで気になった次の新書を入手して読んだ。

 『世界は四大文明でできている』(橋爪大三郎/NHK出版新書)

 私と同世代の社会学者・橋爪大三郎氏には多数の著作があり、その何冊かを読んでいる。宗教を扱った『ふしぎなキリスト教』『ゆかいな仏教』は面白くて刺激的だった。本書も宗教社会学視点の解説書と知り、興味がわいた。

 四大文明と言えば、私たちは子供の頃に「エジプト文明」「メソポタミア文明」「インダス文明」「中国文明」と習った。現在の教科書では四大文明とは言わないらしい。本書の四大文明は古代の四大文明ではなく「キリスト教文明」「イスラム文明」「ヒンドゥー文明」「中国・儒教文明」を指している。

 世界三大宗教はキリスト教、イスラム教、仏教だと思うが、現代社会の成り立ちを探求する社会学の視点からは「キリスト教文明」「イスラム文明」「ヒンドゥー文明」「中国・儒教文明」という区分けが有効なようだ。

 本書は、グローバルな場で通用する見識ある経営者育成を目的にした講義をまとめたもので、記述は講義の実況中継風だ。国際的なビジネスの現場で先方の考え方のバックボーンを理解するために必要な最小限の知見を解説した講義録である。

 各文明を解説した章は「一神教の世界」「ヒンドゥー文明」「中国・儒教文明」の三つになっている。キリスト教文明とイスラム文明は「一神教の世界」としてセットで解説していて、質量ともにこれが大きい。ビジネスの世界で欧米やイスラム圏との交流が重要だから、一神教の理解にウエイトを置くことになる。

 一般の日本人がイメージする神が、一神教における神といかに異なるかを興味深く解説している。一神教では、神様は主人で人間は家来以下の奴隷だそうだ。日本のような多神教の神様は人間の友達に近い。ちなみに、仏教や儒教は一神教でも多神教でもなく、神様はいないとしている。なるほどと思った。

 著者は文明と文化の違いも明解に解説している。文化とは、民族や言語など自然にできた人々の共通性もとづくものである。文明とは、さまざまな文化の多様性を統合して大きな人類共存のまとまりを人為的に作り出したものである。自然に生まれるのが文化、文化を超えて人為的に形成されるのが文明ということだ。宗教は多様性を統合する装置のひとつである。だから宗教ごとに文明が存在する、という考え方になる。

 宗教とはやっかいなものだ。宗教を超克した共同幻想を形成できれば世界は一つの文明になると思うのだが……。