ビジュアルブック『つげ義春:夢と旅の世界』を堪能2020年08月23日

『つげ義春:夢と旅の世界』(つげ義春・山下裕二・戌井昭人・東村アキコ/	とんぼの本/新潮社)
 つげ義春がクセになり、新潮社のビジュアルブック・シリーズ「とんぼの本」の『つげ義春』を読んだ。

 『つげ義春:夢と旅の世界』(つげ義春・山下裕二・戌井昭人・東村アキコ/ とんぼの本/新潮社)

 「ねじ式」「紅い花」「ゲンセンカン主人」の原画(作者蔵)を全ページ収録し、他にも印象的なコマを多く掲載している。つげ義春の旅写真や風景画と共にインタビュー、解説記事、年譜などで構成したビジュアルな本である。

 つげ義春のインタビュー記事が興味深かった。精神科に長く通っていたのは、医師が出した薬のせいで、通院をやめて薬をやめたら治ったという話は、真実はどうであれ、面白い自己認識の逸話だ。音楽はバッハ以前のクラシック、文学は私小説という趣味は、いかにもつげ義春風である。

 つげ義春は白土三平や水木しげるなどの「ガロ」に近い人だが、若い頃に手塚治虫や赤塚不二夫との交流もあったそうだ。次のように語っている。

 「トキワ荘には、まだ赤塚さんたちが入られる前、手塚(治虫)さんが一人で住んでおられた時に訪ねたこともありました。マンガ家になろうと思い立ち、原稿料がいくらくらいか訊きに行ったんですが、きちんと対応してくれて、親切でしたよ。」

 「若い時は赤塚さんと親しくしていたんですよ。(…)まだ(赤塚が)デビュー前で、トキワ荘に移ってからも、彼だけがなかなか芽が出ないんですね。ぼくがトキワ荘を訪ねても、相手をしてくれるのは、赤塚さんくらいでした。」

 手塚治虫の話は「生活者」つげ義春をほうふつさせる。赤塚不二夫との交流を知って、赤塚不二夫が何かの雑誌に「ねじ式」のパロディ「バカ式」を描いていたのを思い出した。ラストのコマは「このネジを締めると、ぼくはタリラリラーンとなるのです」だった。あれは旧友へのオマージュだったのかと思った。念のためにネットで調べると「バカ式」は長谷邦夫の作品で「ねじ式」「天才バカボン」を混合したパロディだった。おのれの記憶のいいかげんさをあらためて知った。

 また、このインタビューで自身のマンガについて次のようにも述べている。

 「私小説風にすると、自分のことも適当に入れるので実話のように誤解されることがよくありますね。」

 つげワールドは、マンガもエッセイも現実の世界から妙にズレた異世界を描いている。架空の実話なのである。

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