米国占領下の沖縄が舞台のエンタメ『宝島』は伝説談のようだ2021年11月22日

『宝島』(真藤順丈/講談社)
 那覇市の古本屋で入手した次の小説を読んだ。

 『宝島』(真藤順丈/講談社)

 2年前の直木賞受賞でこの小説を知り、戦後沖縄を舞台にしたメルヘン風の悪童物語というイメージを抱いていた。開高健の『日本三文オペラ』や小松左京の『日本アパッチ族』のようなバイタリティあふれる小説を予感した。私の予感は半分当たり、半分はずれた。

 米軍基地からの窃盗団「戦果アギャー(戦果をあげる者)」をめぐるこの物語は、予感した以上に軽快にブッ飛んでいて、予感した以上にシリアスだった。、沖縄方言満載の不思議な一千枚である。

 著者は東京出身だそうだが、それを知らずに読むと、作者を沖縄出身と思い込んだだろう(沖縄の人がどう感じるかは不明だが)。会話部分だけでなく地の文章も沖縄方言があふれている。この奇妙な「語り」の随所にカッコつきのツッコミが挿入されていて、読み始めてしばらくは、この「語り手」は何者だろうと気になった。やがて、それは自称「語り部」だと気づく。それも、集合的な語り部らしいのである。神話や伝説の雰囲気が漂う面白い手法だ。

 主な登場人物の名もどこか神話的だ。オンちゃん、グスク、レイ、ヤマコ、ウタなどである。漢字名の人物も登場する。そのほとんどは実在の人物で、瀬長亀次郎(沖縄人民党書記長→那覇市長→衆議院議員)、屋良朝苗(沖縄教職員会長→行政主席→沖縄県知事)、喜捨場朝信(ヤクザの親分)、又吉世喜(ヤクザの親分)などである。これらのカタカナ名と漢字名の人物が入り混じって物語が展開していく。

 そんな物語は1952年から1972年までのアメリカ占領下の沖縄、つまり「アメリカ世」の沖縄の歴史と沖縄の人々の感性をダイレクトに反映している。米軍機墜落事故やコザ暴動も出てくる。占領下の20年という時間は新生児が成年になるまでの濃密な時間であり、沖縄の人民史を伝説のように語る小説である。

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