青木繁の『海の幸』から派生した森村泰昌の歴史パノラマを観た2021年11月24日

 アーティゾン美術館で『M式「海の幸」森村泰昌:ワタシガタリの神話』という展示を観た。この美術館は元ブリヂストン美術館で、2年前に京橋の高層ビルにオープンした。写真撮影原則OKなのがいい。

 森村泰昌氏は名画の人物や有名人に扮したセルフポートレート写真で名高い美術家である。新聞や雑誌で森村氏の奇怪な作品を知り、いつか観たいと思っていた。現物作品を眼前にすると、やはり迫力を感じる。

 今回、森村氏が扮するのは青木繁の『海の幸』である。この美術館が所蔵する本物の『海の幸』をはじめ青木繁の作品数点も同時に展示している。面白い企画だ。青木繁に扮した森村氏が、28歳で夭逝した青木繁に語りかける『ワタシガタリの神話』という動画作品を会場内で上演している。

 10人の人物が描かれた『海の幸』の森村版には10点のバージョンがある。作中人物に扮した10人の森村氏が登場するオリジナルに似せた作品の他にさまざまな興味深い作品を展示している。『海の幸』は1904年(明治37年)の作品で、森村版はその後の歴史を反映する仕掛けになっている。1964年の東京オリンピック開会式や1960年代末のゲバ棒学生群像などもあり、現代史のパノラマのようだ。
  
 これら10点のタイトルも興味深い。『假象の創造』『それから』『パノラマ島綺譚』『暗い絵』『復活の日1』『われらの時代』『復活の日2』『モードの迷宮』『たそがれに還る』『豊穣の海』である。私の読んだ小説ばかりでうれしくなった。わからなかったのは『假象の創造』と『モードの迷宮』で、調べてみると前者は青木繁の文集のタイトル、後者は鷲田清一の著作名だった。それにしても、光瀬龍の『たそがれに還る』に出会えたのは驚きだった。

 オリジナルと似たポーズの作品もあるが、そうでないものもある。戦争場面のバージョン『暗い絵』が藤田嗣治の戦争画『アッツ島玉砕』を模しているのはわかったが、他はよくわからなかった。何かを模しているのだろうと思うが。

 最後から2枚目は途上人物が4人に減少し、最後の1枚は一人だけになってしまう。その一人は人間なのか非人類なのかよくわからない。地球の未来の暗示だと思う。