キタイ(契丹)と平将門のつながりに驚いた2021年11月26日

『疾駆する草原の征服者』(杉山正明/中国の歴史08/講談社)
 モンゴル史研究の第一人者・杉山正明氏の次の本を読んだ。

 『疾駆する草原の征服者』(杉山正明/中国の歴史08/講談社)

 講談社の叢書「中国の歴史」の第8巻で2005年刊行である。今年になって講談社学術文庫になったが、私が読んだのは昨年入手したハードカバーである。

 安禄山の挙兵からモンゴル帝国解体まで、8世紀半ばから14世紀半ばまでの約600年の中国史を描いている。中華王朝史観・西欧中心史観の見直しを提唱する杉山氏の歴史書だから、中国「正史」のバイアスを批判的に検討し、世界史的視点を提示している。

 巻末に主要人物略伝がある。取り上げているのは安禄山(安史の乱)、安思明(安史の乱)、耶律阿保機(キタイ帝国)、朱全忠(後梁)、李克用(沙陀軍閥)、李存勗(沙陀軍閥)、耶律突欲(キタイ皇子)、チンギス・カン(モンゴル帝国)、クビライ(モンゴル帝国)の9人で、本書は彼らの活躍を中心に600年の中国史を描いている。

 本書が扱うスパンは高校世界史では「唐・五代十国・宋・金・南宋・元」と憶える時代だが、杉山氏はそのような中国「王朝」に基づく見方では歴史の実態を見誤ると警告している。これらの「国」はワンノブゼムに過ぎず、その周囲には対等あるいはより強力な「国」がいくつも存在し、それらが多元的に盛衰をくり返していたのだ。

 特に唐に関して、日本人は唐を大王朝と特別視する傾向があるが、唐が「世界帝国」だったのは初期の一瞬との指摘に、大唐にロマンを感じている私はドキッとした。

 これまでに私が読んだ杉山氏の著作はモンゴルがメインだったが、本書はそれ以前がメインで、「キタイ(契丹)vs 沙陀」にかなりのページを費やしている。史料が少なく不明の点も多いキタイの記述に力点をおき、現地調査の報告も収録している。

 私が驚いたのは、平将門の乱(939年)とキタイを関連付けている点だ。乱を起こした将門は奏状で、おのれの正統性を支える事例としてキタイの阿保機による渤海国接収(926年)に言及しているそうだ。大陸や半島における「時代」急変の震動が日本にも伝わり、平将門や藤原純友の「反乱」につながった――杉山氏はそんな推測を述べている。ダイナミックな見方である。

 また、『資治通鑑』を執筆した宋の司馬光を「心性は子ども」「浅知恵がみじめ」などと徹底的に批判しているのが面白い。漢文の史書がいかに事実を歪曲しているかの指摘であり、史書の読み方の難しさを感じた。同時に現代にも通じる「歴史認識」の危うさや難しさに思いを馳せた。