4人の役者の役が目まぐるしく変転する『叔母との旅』2021年11月28日

 サンシャイン劇場で加藤健一事務所の『叔母との旅』(原作:グレアム・グリーン、脚色:ジャイルズ・ハヴァガル、演出:鵜山仁、出演:加藤健一、雨宮良、清水明彦、加藤義宗)を観た。

 加藤健一事務所の芝居は大昔に一度観たきりで、久々である。加藤健一は私より1歳下の1949年生まれ72歳だ。いまだ元気で若いのを確認し、なぜかホッとした。

 軽快なコメディを予感して劇場に赴き、確かにそうではあったが、かなり特異な仕掛けに驚いた。原作はグレアム・グリーンの小説(私は未読)なので渋いユーモアがある。脚色が特異なのだ。

 会話だけでなく、地の文章も役者が語る作りになっている。語り手は主人公のヘンリー・プリングで、朗読劇のようでもある。登場する役者は4人だけで、4人が地の文と「科白&演技」を分担し、それが目まぐるしく変転する。一人が何人もの役を演じるだけでなく、4人が交替で一人の人物を演じたりもする。時には黒子にもなる。冒頭部分だけの仕掛けかと思ったが、これが最後まで続いた。

 チラシを見たとき、『叔母との旅』というタイトルなのに出演は男優4人だけなので、「叔母」は登場しない芝居かと思った。しかし「叔母」だけでなく何人かの女性がしっかり舞台に登場する。それを男優たちが「語り」の合間に演じるのである。一人で何役もこなす「落語」のように語りながら、複数の役者が役を交替しながら舞台を動き回る芝居である。演じる役者も大変だろうが観る方も混乱しそうになる。この面白い仕掛けを、最後まで飽きることなく堪能できた。

 大筋は、銀行を定年退職した50代の主人公(ロンドン在住)が、母親の葬儀で初めて対面した奔放な叔母(母の妹)に振り回されて、イスタンブール、アルゼンチン、パラグアイなどを旅する話である。その中で主人公の心境が次第に変化していく。ハッピーエンドではあるが、本当にこれで大丈夫なのかという気もする。