吉田羊の『リチャード三世』はシンプルで面白い ― 2026年05月31日
パルコ劇場でシェイクスピアの『リチャード三世』(訳:松岡和子/演出:森新太郎/出演:吉田羊、愛希れいか、中越典子、赤澤遼太郎、増子倭文江、浅野雅博、星智也、清田智彦、篠井英介、渡辺いっけい)を観た。
森新太郎演出、吉田羊主演のシェイクスピアを観るのは『ジュリアス・シーザー』、『ハムレットQ1』に続いて3作目だ。上演時間3時間(休憩20分含む)のテンポのいい現代的なシェイクスピアだった。
昨年、加藤義宗主演の『リチャード三世』を観たときに福田恒存訳の戯曲を読んだ。今回は観劇前に松岡和子訳を入手して読んだ。歴史劇は事前に人間関係を把握しておかないとわかりにくい。『リチャード三世』はランカスター家とヨーク家の私闘と言える薔薇戦争末期の話で、登場する貴族たちの姻戚関係がゴチャゴチャしている。対立関係の系図を頭に入れておく方が芝居を楽しめる。
舞台は上段と下段の水平二段のいたってシンプルな造りで、大道具も背景もない。役者たちの衣装もシンプルで現代的だ。リチャードの白いジャケット、スタンリー卿の赤いジャケットは白薔薇、赤薔薇を現わしているのだろう。中世の話というよりは、陰謀、派閥抗争、冷酷な人事が渦巻く現代の企業社会に見えてくる。現代風の衣装に王冠の姿はオーナー社長だ。
そんななかで、芝居全体に呪いをかける存在の元王妃マーガレットが特異である。王だった夫や皇太子だった息子をヨーク家(白薔薇)に殺害されたランカスター家(赤薔薇)の大立者だが衣装は赤ではなく黒だ。顔に赤い血がにじんだ不気味なメイクでマーガレットを演じる女形・篠井英介の姿は遠い過去から現れた怨霊に見える。
悪人リチャードを演じる吉田羊のせむしを強調した演技に違和感はなく、熱演のなかにコミカルな要素もあり、余裕さえ感じた。
この芝居の登場人物は50人近いが役者は10人、リチャード役の吉田羊以外の9人は一人で複数の役を入れ替わり立ち代わり演じる。この趣向がテンポいい展開につながっている。
芝居終盤、戦場の夜の場面、リチャード三世と仇役リッチモンド(後のヘンリー七世)が二手に分かれて眠っているとき、リチャードに殺された亡霊たちが現れ、リチャードには呪いの言葉、リッチモンドには勝利の予言を語りかける。戯曲では亡霊は11人だが、役者が10人の今回の舞台の亡霊は8人に減らしている。
ラストは、有名なリチャードの次の台詞である。
「馬だ! 馬をよこせ! 代りに俺の王国をくれてやる、馬!」
(A horse! A horse! My kingdom for a horse!)
この台詞の直後にリチャードは戦死、幕となる。戯曲ではこの後にスタンリー卿とリッチモンド会話する場面があるが、今回の上演では省いている。リチャード戦死で幕が下がり、また幕が上がり、赤いマントで後向きの王冠姿が現れる。赤マントだから新たな国王リッチモンド(ヘンリー七世)だと思ったが、振り返ると無言のリチャード三世(吉田羊)だった。そこで終幕である。意表をつかれた。
戯曲ではリッチモンドが白薔薇と赤薔薇の和解を宣言するので、それを表しているのかもしれない。あるいは、後年のリチャード再評価を反映した終幕だろうか。
森新太郎演出、吉田羊主演のシェイクスピアを観るのは『ジュリアス・シーザー』、『ハムレットQ1』に続いて3作目だ。上演時間3時間(休憩20分含む)のテンポのいい現代的なシェイクスピアだった。
昨年、加藤義宗主演の『リチャード三世』を観たときに福田恒存訳の戯曲を読んだ。今回は観劇前に松岡和子訳を入手して読んだ。歴史劇は事前に人間関係を把握しておかないとわかりにくい。『リチャード三世』はランカスター家とヨーク家の私闘と言える薔薇戦争末期の話で、登場する貴族たちの姻戚関係がゴチャゴチャしている。対立関係の系図を頭に入れておく方が芝居を楽しめる。
舞台は上段と下段の水平二段のいたってシンプルな造りで、大道具も背景もない。役者たちの衣装もシンプルで現代的だ。リチャードの白いジャケット、スタンリー卿の赤いジャケットは白薔薇、赤薔薇を現わしているのだろう。中世の話というよりは、陰謀、派閥抗争、冷酷な人事が渦巻く現代の企業社会に見えてくる。現代風の衣装に王冠の姿はオーナー社長だ。
そんななかで、芝居全体に呪いをかける存在の元王妃マーガレットが特異である。王だった夫や皇太子だった息子をヨーク家(白薔薇)に殺害されたランカスター家(赤薔薇)の大立者だが衣装は赤ではなく黒だ。顔に赤い血がにじんだ不気味なメイクでマーガレットを演じる女形・篠井英介の姿は遠い過去から現れた怨霊に見える。
悪人リチャードを演じる吉田羊のせむしを強調した演技に違和感はなく、熱演のなかにコミカルな要素もあり、余裕さえ感じた。
この芝居の登場人物は50人近いが役者は10人、リチャード役の吉田羊以外の9人は一人で複数の役を入れ替わり立ち代わり演じる。この趣向がテンポいい展開につながっている。
芝居終盤、戦場の夜の場面、リチャード三世と仇役リッチモンド(後のヘンリー七世)が二手に分かれて眠っているとき、リチャードに殺された亡霊たちが現れ、リチャードには呪いの言葉、リッチモンドには勝利の予言を語りかける。戯曲では亡霊は11人だが、役者が10人の今回の舞台の亡霊は8人に減らしている。
ラストは、有名なリチャードの次の台詞である。
「馬だ! 馬をよこせ! 代りに俺の王国をくれてやる、馬!」
(A horse! A horse! My kingdom for a horse!)
この台詞の直後にリチャードは戦死、幕となる。戯曲ではこの後にスタンリー卿とリッチモンド会話する場面があるが、今回の上演では省いている。リチャード戦死で幕が下がり、また幕が上がり、赤いマントで後向きの王冠姿が現れる。赤マントだから新たな国王リッチモンド(ヘンリー七世)だと思ったが、振り返ると無言のリチャード三世(吉田羊)だった。そこで終幕である。意表をつかれた。
戯曲ではリッチモンドが白薔薇と赤薔薇の和解を宣言するので、それを表しているのかもしれない。あるいは、後年のリチャード再評価を反映した終幕だろうか。

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