『海をゆく者』はクリスマス芝居だった2023年12月22日

 パルコ劇場で『海をゆく者』(作:コナー・マクファーソン、翻訳:小田島恒志、演出:栗山民也、出演:小日向文世、高橋克実、浅野和之、大谷亮介、平田満)を観た。

 1971年生まれのアイルランド出身の劇作家の2006年の作品である。日本での上演は2009年、2014年に続いて三回目だそうだ。私には未知の作品で、チラシを見てもどんな芝居か判然としない。それでも観ようと思ったのは、男優五人だけが喋りまくるという設定と、五人の役者の顔ぶれに魅力を感じたからである。

 舞台は男兄弟二人(兄は高橋克実、弟は平田満)が暮す薄汚れた家、クリスマス・イブの日の朝から翌朝までの話である。兄は飲んだくれ、イブの朝も酔いつぶれている。前夜から一緒に飲んだ友人(浅野和之)も帰りそびれて泊まり込んでいる。禁酒中でわけあり気な弟は兄たちの朝食を用意する――そんなシーンから始まる芝居は、酔っ払い相手の怒声が飛び交いテンションが高い。

 イブの準備の買い物を終えた午後になると、別の友人(大谷亮介)が知人(小日向文世)を連れてやって来る。男たちは海に出ていくわけではない。酒宴とポーカーと怒声の舞台である。

 第1幕75分、休憩20分、第2幕85分のこの芝居、舞台からウィスキーの匂いが漂ってくる気分になる。隙をとらえては隠し持ったウィスキーをゴクゴク飲む浅野和之の姿が面白い。休憩時間のロビーにしつらえた小さなカウンターには、お茶やコーヒーの他にアイリッシュ・ウィスキーを用意していた。思わず手を出したくなったが自制した。

 ネタバレになるが、来客の小日向文世は人間ではなくて悪魔である。だが、悪魔にしてはかなり人間ぽくって、酒を飲み過ぎると千鳥足になる。内容はまったく異なるのだが、クリスマス・キャロルみたいな芝居だなと感じた。名優たちの競演も祝祭的だ。この時期にふさわしい上演である。