フランス革命時代の激流に唖然とさせられる『革命と皇帝』2023年12月14日

『革命と皇帝(大世界史14)』(柴田三千雄/文藝春秋/1968.7)
 西洋史の大事件と言えばフランス革命、そのあらましは知っている気がしていたが、考えてみれば、ぼんやりと高校世界史程度の内容が浮かぶだけで、よく把握できていない。少し勉強しようと思い、次の概説書を読んだ。

 『革命と皇帝(大世界史14)』(柴田三千雄/文藝春秋/1968.7)

 半世紀以上昔の本である。冒頭に1968年の「五月革命」が出てきて驚いた。私たち団塊世代には懐かしい「革命」だ。本書刊行2カ月前の出来事である。フランス革命、パリコミューンを経て「五月革命」――パリはホットな舞台だ。

 本書のタイトル『革命と皇帝』は「フランス革命と皇帝ナポレオン」を指す。財務総監チュルゴーの失脚(1776年)を前奏曲として、バスチーユ襲撃(1789年)、ルイ16世処刑(1793年)、テルミドール9日のクーデタ(1794年)、ブリューメル18日のクーデタ(1799年)、ナポレオン皇帝即位(1804年)、ワーテルローの戦い(1815年)などを経てナポレオンがセント・ヘレナ島で没するまで(1821年)の半世紀足らずを概説している。

 本書を読み終えて、あらためて疾風怒涛の激動の時代だったとの感慨がわく。フランス革命の始まりは 1789年7月のバスチーユ襲撃、その後何度か「革命は終った」と言われるが、本当に終わったと見なせるのは10年後の1799年12月である。第一統領になったナポレオンは「市民諸君。革命はその発端となった諸原則に定着した。革命は終った」と布告する。その後、ワーテルローまでの16年間はナポレオン時代になる。

 バスチーユからワーテルローまでの26年、75歳の私はこの26年間を長いとは思わない。現在(2023年)から26年前の1997年は拓銀や山一証券が破綻した年、私にとってはつい昨日のように思える。たった26年の間にめまぐるしい有為転変があり、多くの人物が死に、生き延びた人もいる。時代の激流に唖然とする。

 フランス革命史を読んでいると、ギロチンに送られた人のあまりの多さに息をのむ。革命が進行する過程で「革命」「反革命」の基準は揺れ動き、「昨日の友は今日の敵」やその逆がくり返される。革命家たちと民衆が織りなすドラマは、理念、打算、陰謀が渦巻いて複雑だ。変動の時代のうねりの怖さを感じる。

 本書には「革命家の活動歴」と題した図が載っている。22人の革命家(?)の1789年から1818年までの活動をグラフで表している。ダントンやロベスピエールなど早々に処刑される人もいれば、タレイランやフーシェなどはしぶとく生き延びる。著者は生き延びたこの二人を「陰謀と無節操を生命とする男」と表現している。『第三身分とは何か』のシエイエスも生きながらえている。革命の時代の酷薄がしのばれるグラフである。