『古代インドの文明と社会(中公版世界の歴史3)』で古代インド史復習2023年12月03日

『古代インドの文明と社会(中公版 世界の歴史3)』(山崎元一/中央公論社/1997.2)
 46年前に出た講談社版世界の歴史の『ガンジスの文明』(中村元)を読み、その記憶が消滅する前に類書を読んでおこうと思い、次の本を読んだ。

 『古代インドの文明と社会(中公版 世界の歴史3)』(山崎元一/中央公論社/1997.2)

 講談社版の20年後の本である。と言っても26年前だ。中公版の『世界の歴史(全30冊)』は何年か前に古書で一括購入したが大半が未読、いつになったら全巻読破できるかわからない。

 古代から現代に至るまでインドはヒンドゥー教だ。カースト制も残っている。本書はヒンドゥー教とカースト制の二つを軸にインドの古代史を概説し、インドの現状(26年前の)にも言及している。

 著者は冒頭近くで「正統派」とは何かについて、次のように述べている。

 「(…)しかしインド思想全体の流れからみれば、主流は明らかにバラモン教(ヒンドゥー教)であるため、本書ではこの宗教を正統派と呼び、仏教・ジャイナ教の側を「異端」ではなく「非正統派」と呼ぶことにしたい。」

 バラモン教と言えば司祭階級バラモンが最上位のカースト制である。アーリア人が西北インドに進入してきたのはインダス文明発祥から約1000年後のBC1500年頃、そんな大昔から司祭階級バラモン(アーリア人)は存在したらしい。そのバラモンを最上位とする階級制度が紆余曲折を経て現代まで存続しているのは不思議だ。

 だが、それを不思議と思うのではなく、その理由を把握しなければならない。本書を読むと、それが見えてくる。バラモン教は非アーリア的な民間信仰を取り入れてヒンドゥー教として広がり、仏教は部分的にヒンドゥー教に取り込まれつつ消滅していく。そこにはさまざまな必然的事情があった。著者は、その大きな流れを次のように総括している。

 「カースト制度も、ヒンドゥー教も、さらに仏教も、決して固定したものではなく、時代の要請に応じつつ自己を変革し、ときにはその根本とみられる部分にも変革のメスを入れつつ今日に伝えらえた。そして、今日なおその変革の過程にあるのである。」

 本書でアンベードカルという興味深い人物を知った。古代の人ではなく、インド独立時の共和国憲起草委員会の委員長でネール内閣の労働大臣・法務大臣などを務めた人物である。この人は、カースト最下層の不可触民出身で、1956年にインド仏教再興の大衆運動を起こし、600万人以上の信徒をもつ今日の仏教の生みの親になる。彼は、全インドの仏教化を構想していたそうだ。