別役実世界の舞台に不思議な懐かしさを感じた2021年07月08日

 下北沢ザ・スズナリで燐光群の公演『別役実短篇集 わたしはあなたを待っていました』(演出:坂手洋二)を観た。別役実の一幕劇4本の連続上演で、4時間弱の長丁場だ。

 前半が『いかけしごむ』『眠っちゃいけない子守歌』、休憩をはさんで後半が『舞え舞えかたつむり』『この道はいつか来た道』、いずれも初見で戯曲も読んでいない。

 私は冒頭の『いかけしごむ』が一番面白かった。裸電球の電信柱とベンチという別役実定番の舞台で繰り広げられる科白がかみ合わない不条理世界に、不気味な面白さを感じる。

 ラストの『この道はいつか来た道』もよかった。電信柱とポリバケツの舞台に、せつなくも愉しげにも見える世界が浮かび上がってくる。

 『眠っちゃいけない子守歌』は、あきらかに女性と思われる役を禿頭の男優が堂々と演じ切る演出に驚き、あらためて演劇の許容度の深さを感じた。

 『舞え舞えかたつむり』は男女9人の役者が登場する。おそらく戯曲は二人芝居である。その二人の背後に分身のように複数の役者がいて科白を分担する。似た演出を以前にどこかで観た気がするが、舞台が華やかになって面白い。

 私が芝居を見始めた1960年代後半、当時全盛だったアングラ系に惹かれたが、別役実という名前は既に伝説のビッグネームだった気がする。三一書房から出た戯曲集には目を通したが、当時の舞台は観ていない。今回、別役実の世界に浸って、不思議で静謐な懐かしさを感じた。