「72歳の大陸横断ひとり旅」の行動力に感心2021年07月27日

『ぶらりユーラシア:列車乗り継ぎ大陸横断、72歳ひとり旅』(大木茂/現代書館)
 知人から「友人がこんな本を出した」と紹介され、面白そうだと思い購入して読んだ。壮大な旅日記である。

 『ぶらりユーラシア:列車乗り継ぎ大陸横断、72歳ひとり旅』(大木茂/現代書館)

 著者は私より1歳上のフリーカメラマンだ。本書は、ユーラシア大陸の東端から西端までを3カ月(2019年8月~11月)かけて鉄道旅行した記録である。このユーラシア大陸横断は、シベリア鉄道による最短コース(大圏コースに近い)ではなく、極東から、ハルピン、北京、西安、ウルムチ、中央アジア、イラン、トルコとシルクロードをたどってポルトガルの西端に至る大旅行で、ガイドも通訳も旅行会社のアシストもない「貧乏旅行」である。著者のバイタリティに感心する。

 本書は全528ページのほぼすべてに数葉のカラー写真が載った画文集で、ページをめくるだけでも楽しい。著者はこの旅行中、日々の記録と写真を友人たちにメール送信していて、その記録をベースに編集したのが本書である。

 写真の多い本を読むとき、文章読みと写真眺めのタイミングの取り方が難しい。だが本書は、すべての写真に番号を付し、旅日記風の本文中にほぼすべての写真番号を引用しているので、文章を読み進めながらスムーズに写真を眺められて心地よい。と言っても、多数の写真を収録しているために小さい写真が多く、私は天眼鏡で写真のディティールを眺めながら文章を読み進めた。

 そんなわけで、スムーズだが時間のかかる読書になり、それは、著者の3カ月の旅に同行して疑似体験に浸る至福の読書時間でもあった。

 著者は「撮り鉄」が高じてカメラマンの道に進んだ人で、多様な仕事をこなすフリーカメラマンのキャリアを積み重ねる中で幾度となく海外取材を経験している。訪問地の大半は過去に何度か来た場所である。今回の大旅行は著者の旅の集大成のようだ。

 そんな著者が今回初めて訪れたのがタジキスタンで、それは「寄り道」である。ウズベキスタンからトルクメニスタン経由でイランに行く際、ウズベキスタンで10日間の時間つぶしが必要となり、それをタジキスタンへの往復旅行に当てている。その10日間とはトルクメニスタンのビザ申請から取得までの時間である。日本で取れる観光ビザだと宿泊予約やガイド付きで割高になるので、現地の隣国ウズベキスタンで申請するという大胆な方法を採ったのだ。

 この「寄り道」に私が惹かれたのは、ワイルドな行動力への敬服もあるが、タジキスタンがわが思い出の地だからである。私は一昨年、ソグド人への関心から「幻のソグディアナ タジキスタン紀行8日間」というパック旅行に参加した( 紀行文1    )。日程を調べると、私が訪問した翌月に著者は「寄り道」旅行をしている。本書の写真を眺めながら懐かしさに浸ることができ、うれしかった。

 本書を読んでいて、あらためてカメラマンという人種の特性(=魅力)を垣間見た気がする。周到かつ臨機応変で、前線や対象へ突撃する度胸と愛嬌があり、不撓不屈の精神で立ち直りが早い――そんな感じである。