樺山紘一『地中海』でイスラムの学者たちの横顔を知った2021年07月21日

『地中海:人と町の肖像』(樺山紘一/岩波新書)
 西洋史家・樺山紘一氏の次の新書を読んだ。

 『地中海:人と町の肖像』(樺山紘一/岩波新書)

 年を取って世界史への関心がわき、ボチボチ読んでいると、われわれが馴らされてきた西欧中心史観を相対化せねばという気になってくる。本書の目次を眺めると、私には馴染みのないイスラム系の人物の名がいくつか目に入り、この本を読んでおかねばと思った。

 本書は地中海を正面から論じているのではなく、人物と町を紹介する6編の歴史エッセイ集で、地中海は背景である。

 6編のテーマは「歴史」「科学」「聖者」「真理」「予言」「景観」となっていて、関連する人物は以下の通りだ。私には未知の人物が大半である。それぞれのエッセイは、これらの人物が活躍した町や地域にも焦点を当てているが、その地名は省略する。

「歴史」
 ・ヘロドトス(「歴史の父」。『歴史』を著す)
 ・イブン・ハルドゥーン(イスラムの歴史家。『歴史序説』を著す)
「科学」
 ・アルキメデス(科学者)
 ・プトレマイオス(天文学者、地理学者)
「聖者」
 ・聖アントニウス(「聖アントニウスの誘惑」で有名な聖者)
 ・聖ヒエロニムス(聖書をラテン語に翻訳した聖者)
「真理」
 ・イブン・ルシュド(アリストテレスを研究したイスラムの哲学者)
 ・マイモニデス(イスラム世界のユダヤ人哲学者。アリストテレス主義者)
「予言」
 ・ヨアキム(南イタリアの修道院長。独特の終末論的な予言書を著す)
 ・ノストラダムス(南フランスの医師。『予言集』を著す)
「景観」
 ・カナレット(ヴェネツィアの景観を描いた画家)
 ・ピラネージ(銅版画集「ローマの景観」の作者)

 古代の地中海沿岸で活躍したのはギリシア人、フェニキア人、ローマ人だったが、やがて、北アフリカ、スペインなどはイスラム世界になる。本書を読むと、西欧文明が多くをイスラムの学者たちに負っているさまが垣間見えてくる。