NODA・MAP『華氏マイナス320°』はサイエンス・フェイクション2026年04月20日

 東京芸術劇場でNODA・MAP公演『華氏マイナス320°』(作・演出:野田秀樹、出演:阿部サダヲ、広瀬すず、深津絵里、大倉孝二、高田聖子、川上友里、橋本さとし、野田秀樹、橋爪功)を観た。

 2年前に観たNODA・MAPの『正三角関係』は『カラマーゾフの兄弟』がベースだった。今回はブラッドベリの『華氏451度』がネタだ。このSFはよく憶えているので、多少の下準備がある心積もりで観劇した。だが、私の思惑を大きく超えたブッ飛んだ舞台で、ブラッドベリの記憶などは何の役にも立たなかった。

 「正しくない科学に基づいた、正しくないSF(サイエンス・フェイクション)」 と銘打ったこの芝居、難解な部分もあり、理解できたとは言えない。だが、面白い。生命に関わるサイエンス・フェイクションが現代、中世、古代を駆け巡って展開する。言葉遊びも満載だ。休憩なし2時間20分のノンストップ・パフォーマンスを堪能した。

 舞台は目まぐるしく展開する。現代の化石発掘現場、メフィストと取引するファウスト博士、バベルの塔のエレベーター、ハーメルンの笛吹男、邪馬台国の卑弥呼などの場面転換に目を奪われた。骨伝導、天使病、クレオパトラの受精卵などの怪しげな概念に頭がクラクラしてくる。華氏451度は書物を焼き払う温度だったが、華氏マイナス320°は天使たちの卵を死滅させる温度のようだ。

 役者たちのパフォーマンスにも引き付けられた。阿部サダヲの巧さを再認識した。教授役の深津絵里に貫録があり、『Q:A Night At Kabuki』に続く出演の広瀬すずは生き生きしている。橋爪功は怖いもの知らずの老人力全開の演技だ。

 芝居のなかで「人間の脳はほとんど使われていないというのはフェイクだ」との台詞があり、ネット検索した。「脳がほとんど使われていない」は都市伝説だそうだ。以前に読んだ『まちがえる脳』には、「あなたの脳は本当に必要なのか?」という科学記事の紹介があり、脳の可塑性に驚いた。脳は興味深い分野だ。

 『華氏マイナス320°』は生命科学の驚異と畏れを背景にした芝居だと思う。

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