ビザンツ帝国の概説書をさらに2冊読んだ2022年09月17日

『ビザンツの国家と社会』(根津由喜夫/世界史リブレット/山川出版社)、『ビザンツ帝国史』(ポール・ルメルル/西村六郎訳/文庫クセジュ/白水社)
 ビザンツ帝国史の概説書を何冊か読み、クセになってさらに2冊の概説書を読んだ。

 『ビザンツの国家と社会』(根津由喜夫/世界史リブレット/山川出版社)
 『ビザンツ帝国史』(ポール・ルメルル/西村六郎訳/文庫クセジュ/白水社)

 前者は小冊子、後者はページ数の少ない新書版である。気力減退気味の最近の私でも、手軽に読み進めることができた。

 『ビザンツの国家と社会』には、私の知らない固有名詞が頻出する。概説書数冊でビザンツ史が把握できるものではないと再認識した。

 本書で印象に残った指摘は、各地で力をつけたテマ(軍管区)が西欧の封建領主のような分権化に進まなかった理由である。著者は次のように述べている。

 「7世紀末から9世紀初頭にかけて強大なテマ軍は中央政府にたいしてしばしば反乱の兵をあげたが、それらがテマの分離独立という形態をとらず、つねに首都に攻め上がって政権の奪取をめざすものとなったのも、中央政府が富の巨大な再分配機構としての機能を保ちつづけていたためにほかならかった。」

 ビザンツ帝国で簒奪帝が多い一因がわかった気がする。

 『ビザンツ帝国史』の著者は、訳者の解説によれば、フランスを代表する20世紀の国際的ビザンツ学者の一人だそうだ。

 その著者の「はしがき」が私には興味深かった。ビザンツ学は17世紀フランスの碩学たちが築き、18世紀の啓蒙思想家たちはビザンツを「絶対君主政治」「宗教国家」と見なして激しく非難した。それは、フランス革命前夜の思潮を反映した偏見に近い。その偏見が現在にまで続いているそうだ。「ビザンツ」という言葉に「権謀術数」「曲学阿世」「些末主義」「お追従者」「迷宮」など否定的な意味があると聞いていたが、その淵源が見えた気がする。

 『ビザンツ帝国史』は教科書的な解説書である。特にキリスト教の正統と異端の事情や東教会と西教会の関係を簡潔にわかりやすく解説している。キリスト教関連の話はゴチャゴチャしていて部外者の私にはわかりにくいので、知識整理の一助になる。

 ビザンツ史千年を1冊の新書本で教科書的に概説すると、駆け足になるのは仕方ない。一回通読しただけでは把握した気がしない。

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
ウサギとカメ、勝ったのどっち?

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://dark.asablo.jp/blog/2022/09/17/9526755/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。