沖縄の離島の戦後史を凝縮した『豚と真珠湾―幻の八重山共和国』2022年09月19日

 紀伊國屋サザンシアターで青年劇場公演『豚と真珠湾―幻の八重山共和国』(作:斎藤憐、演出:大谷賢治郎)を観た。

 斎藤憐の芝居を観るのは初めてである。1970年に観た『翼を燃やす天使たちの舞踏』(演劇センター68/70)の作者4人の1人が彼だったが、あの黒テント芝居は佐藤信のイメージが強い。『豚と真珠湾』は2007年の作品である。斎藤憐は2011年に70歳で亡くなったそうだ。

 チラシに「戦後から5年間のこの島(石垣島)でたくましく生きる人々の物語」とあり、基地問題が継続している沖縄を描いたシリアスな芝居だろうと思った。サブタイトルに「幻の八重山共和国」とあるので、何か超現実的な世界が浮かびあがってくる舞台かなとも予感した。だが、そんなことはなく、戦後のひとときに島民が想起した「幻の八重山共和国」をリアルに描いていた。「幻」はまさに幻である。

 舞台は終戦直後の石垣島の料亭――とは言っても、孤児たちを養っている飲み屋の風情だ。その料亭を舞台にした戦後の5年間を描いた群像劇である。料亭の女主人をはじめ、さまざまな島民、台湾出身の密貿易人、糸満出身の女密貿易人、沖縄出身ハワイ移民2世の進駐軍通訳など、さまざまな人物が登場する。沖縄の戦後史を図解するような人間模様であり、うまく工夫していると感心した。ハワイから沖縄への豚の移送は朝ドラ『ちむどんどん』にも出てきた。伝説の英雄アカハチへの言及もある。

 この芝居には、石垣島で新聞発行を始める青年が登場する。それを観て、かつて石垣島に行ったときに八重山の新聞について考えたことを思い出した。また、舞台を眺めながら、かつて読んだ『ナツコ 沖縄密貿易の女王』(奥野修司)『台湾海峡一九四九』(龍應台)が浮かんできた。沖縄の離島の戦後史のあれやこれやの情報と情況を詰め込んだ舞台である。

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