上海租界を舞台にした『マヌエラ』を観た2023年01月22日

 昨年末に読んだ『地図と拳』(小川哲)が直木賞を受賞した。めでたいことである。この小説がきっかけで満州や昭和史の本を続けて読み、そんな気分にマッチした芝居まで観た。池武のブリリア・ホールで上演中の『マヌエラ』(脚本:鎌田敏夫、演出:千葉哲也、出演:球城りょう、渡辺大、パックン、他)である。

 私は、この芝居のチラシを見るまで、マヌエラという名を知らなかった。戦前の上海で有名だった国籍不明のダンサー、実は日本人である。あの時代に中国で名を馳せた日本女性としては川島芳子、李香蘭に次ぐ存在だったと言う人もいる。

 マヌエラこと和田(永末)妙子は帰国後、内幸町に戦後初のナイト・クラブ「マヌエラ」を開店、内外の著名人(マッカーサーからジャズ・ミュージシャンまで)が出入りし、東京の社交界で知らない人はいない存在になったそうだ。もちろん私には縁がなく、そんな存在は知らなかった。和田妙子は2007年に95歳で亡くなっている。

 芝居『マヌエラ』は第二次世界大戦直前の魔都・上海を舞台にしたダンス劇である。実在の人物をモデルにしたエンタメ・フィクションで、往時の上海の混沌とした妖気を感じることができた。この芝居の時代背景に上海事変があり、数年前に読んだ『名誉と恍惚』を思い出した。

 満州の赤い夕陽イメージにロマンを感じるが、上海の魔都イメージにも惹かれる。かつて実在したつかのまの異世界・上海租界には、さまざまな人々の希望や絶望を引き寄せる魔力があった。それは、いつの時代にも、人々の創造力や想像力を刺激する存在なのだと思う。

 マヌエラを演じる球城りょうは元・宝塚のトップスター、この舞台を観ていて、宝塚歌劇の異世界をうっとりと眺めている気分になった。宝塚歌劇は大昔に一度観ただけなのだが。