『昭和史』シリーズに続いて『[真珠湾]の日』も読んだ2023年01月20日

『[真珠湾]の日』(半藤一利/文春文庫)
 半藤一利氏の平凡社ライブラリー版『昭和史』シリーズ4冊を続けて読み、その余波で次の文庫本も読んだ。

 『[真珠湾]の日』(半藤一利/文春文庫)

 私が、それと知らずに半藤氏の著書を初めて読んだのは、1965年に出た『日本のいちばん長い日』だ。高校生だった私は、大宅壮一の本だと思って読んだ。30年後(1995年)に半藤氏名義の『日本のいちばん長い日 決定版』」が出た。半藤氏の著作だったと知り、再読気分で「決定版」も読んだ。

 半藤昭和史に浸り、終戦の日だけを読んで開戦の日を読んでいないのは片手落ちのような気がして、『[真珠湾]の日』を読みたくなったのだ。

 真珠湾攻撃は日本時間1941年12月8日未明である。本書は、その日のドキュメントが中心ではあるが、プロローグでは開戦に至る約1年間の経緯を概説し、「第1部 ハル・ノート」「第2部 開戦通告」では開戦数日前からの緊迫した動きを詳述している。この「第2部」までで約半分だ。

 「第3部 輝ける朝」が、いわばメインで、12月7日の午後9時から8日正午までの15時間の動向を1~2時間ごとに区分けし、多元的・俯瞰的に描いている。開戦が広く世に伝わった8日正午から午後9時までを描いた「第4部 捷報到る」は簡潔で、9日以降に言及したエピローグはやや苦い。

 本書の面白さは目まぐるしい場面転換にある。主な場面をいくつか挙げてみる。
  ・東京の参謀本部
  ・首相官邸
  ・天皇周辺の宮中
  ・米国の国務省
  ・ホワイトハウス
  ・駐米日本大使館
  ・ハワイに向かう機動部隊
  ・呉沖に停泊した連合艦隊旗艦長門(山本五十六)
  ・ホノルルの米太平洋艦隊司令部
  ・マレーに向かう輸送船団
  ・バンコクの日本大使館
  ・シンガポールのイギリス極東司令部
  ・独ソ攻防戦下のモスクワ

 日本の真珠湾攻撃と同時進行で、厳冬のモスクワで敗退しつつあるドイツ軍を描いているのが面白い。もし、日本がドイツの苦戦を明確に認識できていたら、日米開戦はあっただろうか、という問いかけである。

 真珠湾攻撃に関しては、ルーズベルトは知っていながらホノルルに知らせなかったという陰謀論がある。かなり昔、そんな陰謀論を否定する本を読んだことがある。半藤氏も、本書で明確に否定している。

 米国は日本の外交文書の暗号を解読しており、日本が開戦を決めたことは知っていたし、最後通牒を受け取る前からその内容も知っていた。しかし、ルーズベルトは真珠湾の太平洋艦隊が攻撃されるとは、まったく考えていなかったようだ。

 ルーズベルトが日本の先制攻撃を期待していたのは確からしい。米国の世論を参戦に盛り上げて欧州の戦争へ参戦しようと目論んでいたのだ。駐米日本大使館の怠慢のせいで、最後通牒前の真珠湾奇襲となり、ルーズベルトの期待以上の効果をもたらすことになった。

 米国の世論が好戦的になったのはわかるが、日本の世論の高揚もすさまじい。それまでの支那事変は鬱陶しいものだったが、米英との開戦がもやもやを吹き飛ばし、緊張感をともなう爽快感をもたらしたのである。多くの著名人が高揚した言動を残している。

 そんな高揚と無縁だったのが、本書の隠然たる主人公・山本五十六である。真珠湾攻撃を立案し、それを成功に導いた司令長官は、後日、最後通牒が奇襲の後だったと知り、心を許した幕僚にしみじみと「残念だなあ」と語ったそうだ。