『ダム・ウェイター』は不可思議な芝居2021年11月10日

 墨田区の大横川親水公園沿いにある「すみだパークシアター倉」という小劇場でハロルド・ピンターの『ダム・ウェイター』(演出:タカイアキフミ、出演:大野瑞生、横田龍儀)を観た。

 半世紀以上昔の大学時代に、演劇の道に進んだ高校同級の友人から『ダム・ウェイター』という芝居がスゴイと聞いたことがある。記憶に残っているのは意味不明の『ダム・ウェイター』というタイトルだけで、どんな内容かは知らないままに半世紀が経過した。

 3年前、新国立劇場小劇場でハロルド・ピンターの 『誰もいない国』を観たとき、『ダム・ウェイター』がこのノーベル文学賞作家の作品だと知ったが、タイトルの意味も内容も不明のままだった。今回、『ダム・ウェイター』が上演されると知って早速チケットを購入した。

 チケット入手後、たまたま手元の『安部公房全集』をめくっていて、その第24巻に安部公房翻案の『ダム・ウェイター』が収録されているのに気づいた。1973年に安部公房の翻案・演出で安部公房スタジオが『ダム・ウェイター』を上演していたのだ。

 事前に安部公房の翻案戯曲を読めたので、およその内容はわかった。解釈困難、意味不明の劇である。タイトルの意味はわかった。直接的には「料理昇降機(リフト)」のことで「唖の給仕」「馬鹿な給仕」「無言の待ち人」なども暗示している。

 当然ながら、戯曲を読む体験と観劇という体験は大きく異なる。あのモヤモヤした戯曲を生身の役者が演ずる様を眼前にすると、不可思議な状況の緊迫感とおかしさがヒシヒシと伝わってくる。

 この芝居の登場人物は二人の殺し屋、場所はベッドが二つある地下室、二人はそこで何かを待っている。待っているのは、上からの指示のようでもあり、ターゲットの犠牲者のようでもある。この地下室には上階とつながる料理昇降機があり、注文書や料理のやり取りができる。へんてこな設定である。

 二人の殺し屋は兄貴分と弟分という関係で、この二人の会話だけで芝居は進行する。二人の意思とは関係なく作動する料理昇降機の不気味さは、戯曲ではさほど感じなかったが、舞台からはダイレクトに伝わってくる。作動するとき響く異様に大きな音が神経に触るし、小さな扉の向こうに何かが潜んでいる気配が怖い。

 今回の公演は上演ごとに二人の役者が入れ替わる設定である。それはチラシで了解していたが、実は単に役者が交替するだけでなく、演出も異なっているようだ。「シンプルバージョン」と「アレンジバージョン」を交互に上演しているのだ。私が観たのは「シンプルバージョン」の方だった。「アレンジバージョン」も気がかりだが、私が観劇したのは最終日だったので再訪は無理だ。どんなアレンジがあり得るか、自分で想像してみるのも楽しい。