雨音を伴奏に『盲導犬』を観た2025年11月01日

 雑司ヶ谷・鬼子母神の紅テントで唐組の『盲導犬』(作:唐十郎、演出:久保井研+唐十郎、出演:久保井研、稲荷卓央、藤井由紀、福原由加里、大鶴美仁音、他)を観た(2025年10月31日19時)。

 あいにくの雨天だった。2年前に観た猿楽通りの紅テント『秘密の花園』も雨天だったが、今回の雨はあの時より激しい。芝居が始まってから雨足がさらに強まり、テントを叩きつける雨音が終始伴奏として流れる舞台だった。ラスト、お約束の屋台崩しでは、藤井由紀が降りしきる雨をものともせず鬼子母神の境内へと後すざっていった。あいにくの雨がかえって印象に残る舞台になった。テントならではの効用だ。

 『盲導犬』は、1973年に唐十郎(当時33歳)が演劇集団「桜社」を旗揚げした蜷川幸雄(当時38歳)のために書き下ろした作品である。石橋蓮司、緑魔子、蟹江敬三、桃井かおりなどが出演、アートシアター新宿文化で上演された。渡辺えり(当時18歳)はこの舞台を観て、劇団を立ち上げようと決意したそうだ。

 その後、唐組でも上演し、2013年にはBunkamuraシアターコクーンで「演出:蜷川幸雄、出演:古田新太、宮沢りえ、他」で上演された。私はいずれの舞台も観ていない。今回が初見である。1974年に角川文庫で出版された戯曲『盲導犬』は当時入手し、目を通した。

 舞台正面には壁のようなコインロッカーが並んでいる。その前で繰り広げられる哀切で力強い夢幻劇である。舞台装置をよく見ると、コインロッカーを設置した場所は懐かしき新宿駅西口地下だ。観劇後の帰路、いまや永遠に工事中の廃墟のような新宿駅西口地下の仮設道を歩きながら、1970年頃の西口が二重写しになった。芝居に引きずられた幻視だ。

 観劇の帰途の電車でパラパラと戯曲を反芻した。いいなと思った台詞を抜粋する。

 五人の愛犬教師 命令に従っては危険だと犬が判断した時には、命令に従いません。これは”利口な不服従”と言えます。
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 破里夫 それじゃ、可哀相な男と可哀相な女がどうして争い始めたんだろうね。  女 争うのはいつも可哀相な者同士。
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 破里夫 待ってろよファルキイル、これを焼き切る時、俺たちはおまえと一緒にダッタンを越え、ペルシャを越え、ナイルを逆のぼるんだ!

 この芝居の台詞に、盲導犬を知らなかった渡辺紳一郎のエピソードが登場する。私が小学生の頃(1950年代)にテレビの『私の秘密』に出演していた元・新聞記者の「物知り博士」である。小学生の私は渡辺紳一郎のファンだったが、観客の中に渡辺紳一郎を知っている人が何割いるだろうかと思った。

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