カペー朝の歴史は意外に面白い2026年02月07日

『カペー朝:フランス王朝史1』(佐藤賢一/講談社現代新書)
 かなり以前に入手して積んだままだった次の新書を読んだ。

 『カペー朝:フランス王朝史1』(佐藤賢一/講談社現代新書)

 私はフランス史に暗い。フランス革命以降の歴史はある程度イメージできる。ローマ史の本を多少読んできたので、その延長のフランク王国三分割あたりまでも何となくイメージできる。だが、フランク王国が分裂した西フランク王国(フランスの原型)からフランス革命までの千年近い歴史は頭の中でぼんやりしている。

 この数年、世界史関連の本を読むことが多いが、自分の興味がおもむくままの気ままな読書である。受験生ではないので、すべてをカバーせねばという切迫感はない。これまでさほど食指が動かなかったフランス史に関心が向いたのは、ギボンのせいである。ボチボチ再読中の『ローマ帝国衰亡史』の終盤にユーグ・カペーが登場し、フランス史が気がかりになったのだ。

 佐藤賢一氏の『カペー朝』は想定以上に面白く、退屈することなく一気に読了できた。歴史の実相も興味深いが、佐藤氏の洒脱な語り口がいい。さすが、西洋史に造詣の深い小説家だ。

 本書は、ユーグ・カペー(在987ー996)からシャルル4世(在1322ー1328)まで約300年間の14人のフランス王の姿を鮮やかに描き出している。国王たちの何人かは、その一代記が面白い小説になりそうな気がする。そう思わせるのは著者の描写力のせいだが。

 ユーグ・カペーが諸侯からフランス王に選出された時、かつての西フランク王国は群雄割拠の無政府状態だった。フランスという国があったわけではない。フランス王とは「名ばかりの王」で、一地方領主に過ぎなかった。カペー朝の歴史は「名ばかりの王」が300年の時間をかけて「本当のフランス王」になっていく物語である。著者はそれを、自転車操業の個人商店が大店に成り上がっていく奮闘日記になぞらえている。

 本書を読んでいて、以前に読んだ塩野七生の『十字軍物語』『皇帝フリードリッヒ二世の生涯』との接点に出会い、歴史を多面的に眺める楽しさを感じた。

 「花の十字軍」と言われる第3回十字軍に参加したカペー朝のフィリップ2世は、早々に遠征先から引き返してフランスの領土拡張を画策した狡い王のイメージがある。華やかな活躍で知られる獅子心王リチャードとの対比で、その悪役ぶりが際立つ。

 本書は、そのフィリップ2世を名君と描いている。あだ名は尊厳王である。フィリップ2世の側に立てば彼の行動や心情も得心できる。

 フランス視点の本書はリチャードをリシャールと表記する。獅子心王リチャードにはイギリス王のイメージが強いが、イングランド王兼ノルマンディー公兼アンジュ―拍 なので、フランス王から見れば封臣でもある。リシャールは、イギリス人というよりは南フランス人なのだ。著者はフィリップ2世の心情を次のように推測している。

 「リシャールという男は(…)派手好き、賑やか好き、贅沢好きの浮かれた南フランス気質であり、(…)フィリップ2世も好きになれなかったに違いない。華やかに着飾られたり、貴婦人と浮名を流されたり、あるいは雅な詩文を綴られたりするだけなら、まだしも無害というものだが、南フランス気質は戦場にあっては、勇猛果敢な豪胆となって現れるのだ。獅子心王は戦をさせれば、やたら滅法強いのだ。まったく面白くない。」

 本書によって北フランスと南フランスの気質の違いを知った。古くからローマ化されていた地中海世界の南フランスは北よりオシャレだったようだ。カペー朝の歴史は、生真面目が取柄の北の王が南を併合してフランスいう国を形作っていく物語である。