古典文学を通して世界史散策2024年01月09日

『20の古典で読み解く世界史』(本村凌二/PHP研究所)
 『20の古典で読み解く世界史』(本村凌二/PHP研究所)

 ローマ史家・本村凌二氏による本書は、数年前に同じ出版社から出た『教養としてのローマ史/世界史』と同じ造本、テイストも似ている。読みやすい歴史エッセイだ。

 20の古典の概要を紹介し、歴史家の眼でコメントしている。結末の紹介は避け、原典を読むよう促すが、やはり、すでに読んだ作品に関する話の方が興味深く読める。

 本書が取り上げる20の古典のうち、私が読んでいるのは次の12点だ(冒頭数字は本書目次にある番号)。

 『05 神曲』
 『07 ドン・キホーテ』
 『09 ハムレット』
 『10 ロビンソン・クルーソー』
 『11 ファウスト』
 『12 ゴリオ爺さん』
 『14 戦争と平和』
 『15 カラマーゾフの兄弟』
 『16 夜明け前』
 『18 阿Q正伝』
 『19 武器よさらば』
 『20 ペスト』

 古典とは若いうちの読むものだと思っていたが、この12点のうち青字の9点は60歳を過ぎて読んだ(『ハムレット』『カラマーゾフの兄弟』は再読or再々読)。若い頃にさほど古典に親しまなかったということである。私は61歳になった2010年以降は読了本の記録をExcelに残しているので、この十数年に読んだ本は検索できるのだ。

 実は、本書を購入したのは昨年夏である。それ以降に読んだ数冊は本書を機に読んだ。本書を読む前に、かねてから気がかりだった名作を読もうと思ったのだ。

 いずれにしても、本書によって、ささやかなわが読書体験のたな卸しをした気分になった。読書体験も時々反芻しないと忘却の沼底に沈んでしまう。

 未読本は次の8点だ。

 『01 イリアス/オデュセイア』
 『02 史記列伝』
 『03 英雄伝』
 『04 三国志演義』
 『06 デカメロン』
 『08 アラビアンナイト』
 『13 大いなる遺産』
 『17 山猫』

 「01」は『イリアス』だけ読んでいる。本書の紹介を読んで『オデュセイア』も読みたくなったが、この叙事詩は耳で訊きたい。著者は学生に英語版CDを訊かせているそうだ。いのつ日か、日本語オーディオ版が出るのを期待したい。

 「02」の史記は入門書のダイジェストを読んだので、とりあえずそれ満足している。原典に挑戦する意欲はない。

 「03」の『プルタルコス 英雄伝』は何篇かを拾い読みした。いずれ、ちくま学芸文庫版(全3冊)を読むつもりだが、いつになるかわからない。

 「04」の三国志に関しては、十数年前に吉川英治版と北方謙三版を読んだので、『三国志演義』にまで手を伸ばす元気はない。

 『06 デカメロン』は、2020年のコロナ禍の蟄居時代に読もうと思ったことがあるが、すでに機を逸っしてしまった。

 『08 アラビアンナイト』に関しては、半世紀以上昔の学生時代に河出書房から出たバートン版『千夜一夜物語』(全10巻)を入手して拾い読みした。全巻読破はしていない。本書によって、西洋人編纂の『千夜一夜物語』が「好色にして残虐」を強調しているのは植民地支配正当化の反映だと知った。いつの日か読み返すことがあれば、留意すべきだ。

 『13 大いなる遺産』は、本書の紹介に惹かれ、読みたくなった。

 『17 山猫』は映画を観たので、それでいいかと思う。

 これらの名作のなかで著者にとってのナンバーワンは『カラマーゾフの兄弟』だそうだ。私も同意見だ。

 バルザックに関しては『21世紀の資本』の著者・ピケティの見解も紹介し、「人間喜劇」で19世紀の社会を丸ごと描いたのが歴史家にとって魅力だと述べている。ロンドンで資本論を執筆中のマルクスにとって、バルザックの小説は実社会の報告書だったと聞いたこともある。フィクションの力はあなどれない――本書全体を通して、あらためてそう感じる。