いしいひさいちの『ROCA 吉川ロカストーリーライブ』は自費出版2023年02月07日

『ROCA 吉川ロカストーリーライブ』(笑)いしい商店
 わが故郷・岡山県玉野市出身のいしいひさいちが「たまのの市」出身のファド歌手・吉川ロカを描いた漫画『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』が、何と自費出版で刊行されていた。書店にもアマゾンにも置いていない。「(笑)いしい商店」からネット通販で入手した。2022年8月1日初版発行、私が入手したのは2023年1月1日発行の5版だった。

 この本、奥付を含めてすべてあの独特の手書き文字で、どこにも活字がない。もちろん、ISBN番号もバーコードもない。いしいひさいちの漫画を出したい出版社はいくらでもあると思うが、あえて自費出版にする何らかのこだわりがあるのだろう。

 私は、古川ロカについては朝日新聞の『ののちゃん』で知っているだけだった。他にもいくつか書いていて、それらに書き下ろしを加えて1冊にしたのが『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』である。4コマ漫画109編を集成した本書は、4コマ漫画集でありながら、ストリートライブの女子高生がファド歌手として花開いていくストーリー漫画になっている。面白いうえに、長編小説のような感動も味わった。さすが、いしいひさいちだ。

 玉野市出身の私にとっては、懐かしマイナーな地名(田井港など)が出てくるのも楽しい。簡略化された瀬戸内の風景もいい。ラストの1コマが素晴らしい。

 吉川ロカと不良の年長同級生・柴島美乃が、ともに母親を連絡船の沈没事故で失っていることは本書で初めて知った。連絡船沈没といえば1955年の紫雲丸沈没だ。当時、私は7歳だったが記憶に残っている。私より3歳若いいしいひさいちも憶えていたのだろうか。漫画では「紫雲出山丸沈没事故10周年慰霊祭」のとき、吉川ロカは高校生である。とすると、私と同世代で、現在は70歳を超えていることになる。年を取らない4コマ漫画の主人公の年齢を気にしても無意味だが…。

 ポルトガルの国民歌謡「ファド」は、ちあきなおみが歌っていたので、たまたま知っていた。こんな分野に目をつけるのが、いしいひさいちの独特の才である。本書では、芸能プロダクションの役員と担当者の「ファドはもうかりますか」「もうかりません」という会話も出てくる。

 天才いしいひさいちは分野を選ばない。音楽、スポーツ、文学、世界史、現代哲学……何でもギャク漫画で料理する才には舌を巻く。先日、本屋の店頭に、講談社学術文庫版『現代思想の遭難者たち』が積まれていて驚いた。私はハードカバーと増補版のソフトカバーを持っているが、まさかギャク漫画が学術文庫に収録されるとは……。

 本書にも、やや哲学的な問答が出てくる。古川ロカが「偉大なるアマチュア」におわるのではないか、という議論のなかで「あらゆるジャンルの岐路には偉大なアマチュアが関わるというのが私の持論でして…」というセリフが出てくる。以前、マルクス研究のある哲学者が「よく調べれば、マルクスがアマチュアだとわかる。だが偉大なるアマチュアだ」と言っていたのを思い出した。

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