芥川賞受賞作2編を読んだ2023年02月18日

 『文藝春秋』(2023年3月号)掲載の芥川賞受賞作2編を読んだ。『この世の喜びよ』(井戸田射子)と『荒地の家族』(佐藤厚志)である。年を取ると新しい作家の作品に接するのが億劫になる。新たな文学に出会いたいという大層な関心は薄れる。せめて、芥川賞作品で「最近の小説」の様子を一瞥しておこうという気分で受賞作を読んだ。

 『この世の喜びよ』は二人称小説である。半世紀以上昔に倉橋由美子の『暗い旅』で初めて二人称小説に接したときはカッコイイと感じた。『暗い旅』に関しては江藤淳の酷評や倉橋由美子の猛反論などで賑やかな事態になった。『この世の喜びよ』は、そんな騒動を招く要素はなさそうだ。私にとっては、ショッピングセンターの喪服売り場という印象だけが強く残るお仕事小説で、知らない職場を知ったというお得感はある。

 『荒地の家族』は逃げた妻を巡る宙ぶらりんな不条理が印象に残る。私にとっては、ひとり親方の植木屋という、私には馴染みのない職場を知ったというお得感はある。

 私は『文藝春秋』を定期購読していないが、年2回の芥川賞受賞作掲載号だけはほぼ購入している。そういう読者は多いと思う。

 私が芥川賞の『文藝春秋』を初めて買ったのは高校生の頃だった(津村節子か高井有一受賞の頃)。それから半世紀強、芥川賞受賞作を断続的に惰性のように読んできた。大半の受賞作の内容は失念している。

 惰性のように芥川賞受賞作掲載の『文藝春秋』を買い続けてきたのは、選考委員の選評が載っているからである。選評を読むために、その前提として受賞作を読んでいるような気もする。受賞作であっても否定的な評価をしている選考委員もいて、小説の読み方はさまざまだと確認できるのが面白い。受賞者の才を愛でるより、選考委員の芸を楽しんでいるのだ。

 半世紀以上の間に、自分より年長だった選考委員や受賞者が次第に同世代となり、いつの間にか皆が年少者になった。新人だった受賞者もアッと言う間に月日が経って選考委員になっている。齢を重ねるとは、そういうことである。