奪帝が頻出したビザンツ帝国の「革命」の当事者はだれ? ― 2022年12月06日
37年前に出た次の新書を読んだ。
『コンスタンティノープル千年:革命劇場』(渡辺金一/岩波新書)
この新書、1年前に人に薦められて購入した。第1刷は1985年6月だが、限定復刊された新本を購入した(2019年2月 第9刷)。著者は1924年生まれ(私の親の世代だ)の歴史学者、日本におけるビザンツ史研究の泰斗だそうだ。
本書をパラパラめくって、入門的概説書ではないと気づいた。やや難しそうなので、他のビザンツ史概説書を何冊か読んでからにしようと思った。で、ビザンツ史がマイブームのいま、ついに本書に挑戦したのである。
思った以上に読みやすく、面白く読了した。研究者の知見を一般人に語るスタイルで、内容はやや専門的だが語り口は親しみやすい。洒脱な文章である。
冒頭でいきなり『吾輩は猫である』で苦沙弥先生が細君を詰って口走る「夫(それ)だから貴様はオタンチン、パレオロガスだと云うんだ。」が出てくる。これはビザンツ皇帝の名の語呂合わせだそうだ。また、本書の中ほどで、急に21世紀の架空の国家が登場する(本書の刊行は1985年)。首都ワクモスにおけるプルシチョウフ書記長の政治的駆け引きに関する逸話紹介である。興味深い記述スタイルだ。
本書のサブタイトルは「革命劇場」、著者はコンスタンティノープルの千年史は「革命劇場」だと述べている。この革命はクーデターや皇帝位の簒奪を指している。
数カ月前、ビザンツ史の概説書を何冊か読み始めて、簒奪帝が多いのに驚いた。専制君主の体制が1000年以上続いたビザンツ帝国の90人ほどの皇帝のうち30人が簒奪帝である。農民出身の皇帝も珍しくない。万世一系などではなく、まさに革命劇場である。と言っても、下剋上の戦国時代という感じではない。
著者は本書全般で、その革命の当事者は誰だったかを追究している。普通に考えれば、クーデターの当事者は、それを起こした人物(将軍など)だ。軍を率いて決起し、闘争に勝利して新たな皇帝についた人物である。しかし、著者はそんな単純な見方はしない。さまざまな史料の検討をふまえて、ビザンツ帝国の体制は革命を起こしやすかったとし、革命の当事者は軍だけでなく、市民や元老院も当事者であったとしている。意外な話だが、言われてみればそんな気もしてくる。
本書の以下の記述が興味深い。
「ビザンツでは、クーデター――しかもそれは、すでに見たように、この国では、必ずしも違憲的政治行為ではない――で新皇帝が現れる度ごとに、社会の上層部と中・下層部とが大幅に入れかわり、同時に前政府がかき集めた政治資金の没収がおこって、腐敗政権とその腐れ縁の長期化、慢性化への芽はその都度つみとられた。そして、かかる大幅な社会的流動性のプロモーターとなったのは、すでに見たような、他ならぬ皇帝権そのものに内在する極度の不安定性だったということになる。」
『コンスタンティノープル千年:革命劇場』(渡辺金一/岩波新書)
この新書、1年前に人に薦められて購入した。第1刷は1985年6月だが、限定復刊された新本を購入した(2019年2月 第9刷)。著者は1924年生まれ(私の親の世代だ)の歴史学者、日本におけるビザンツ史研究の泰斗だそうだ。
本書をパラパラめくって、入門的概説書ではないと気づいた。やや難しそうなので、他のビザンツ史概説書を何冊か読んでからにしようと思った。で、ビザンツ史がマイブームのいま、ついに本書に挑戦したのである。
思った以上に読みやすく、面白く読了した。研究者の知見を一般人に語るスタイルで、内容はやや専門的だが語り口は親しみやすい。洒脱な文章である。
冒頭でいきなり『吾輩は猫である』で苦沙弥先生が細君を詰って口走る「夫(それ)だから貴様はオタンチン、パレオロガスだと云うんだ。」が出てくる。これはビザンツ皇帝の名の語呂合わせだそうだ。また、本書の中ほどで、急に21世紀の架空の国家が登場する(本書の刊行は1985年)。首都ワクモスにおけるプルシチョウフ書記長の政治的駆け引きに関する逸話紹介である。興味深い記述スタイルだ。
本書のサブタイトルは「革命劇場」、著者はコンスタンティノープルの千年史は「革命劇場」だと述べている。この革命はクーデターや皇帝位の簒奪を指している。
数カ月前、ビザンツ史の概説書を何冊か読み始めて、簒奪帝が多いのに驚いた。専制君主の体制が1000年以上続いたビザンツ帝国の90人ほどの皇帝のうち30人が簒奪帝である。農民出身の皇帝も珍しくない。万世一系などではなく、まさに革命劇場である。と言っても、下剋上の戦国時代という感じではない。
著者は本書全般で、その革命の当事者は誰だったかを追究している。普通に考えれば、クーデターの当事者は、それを起こした人物(将軍など)だ。軍を率いて決起し、闘争に勝利して新たな皇帝についた人物である。しかし、著者はそんな単純な見方はしない。さまざまな史料の検討をふまえて、ビザンツ帝国の体制は革命を起こしやすかったとし、革命の当事者は軍だけでなく、市民や元老院も当事者であったとしている。意外な話だが、言われてみればそんな気もしてくる。
本書の以下の記述が興味深い。
「ビザンツでは、クーデター――しかもそれは、すでに見たように、この国では、必ずしも違憲的政治行為ではない――で新皇帝が現れる度ごとに、社会の上層部と中・下層部とが大幅に入れかわり、同時に前政府がかき集めた政治資金の没収がおこって、腐敗政権とその腐れ縁の長期化、慢性化への芽はその都度つみとられた。そして、かかる大幅な社会的流動性のプロモーターとなったのは、すでに見たような、他ならぬ皇帝権そのものに内在する極度の不安定性だったということになる。」
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://dark.asablo.jp/blog/2022/12/06/9546018/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。

コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。