新疆ウイグル自治区の状況に暗澹とする2022年11月04日

『新疆ウイグル自治区:中国共産党支配の70年』(熊倉潤/中公新書)
 今年6月に出た次の新書を読んだ。

 『新疆ウイグル自治区:中国共産党支配の70年』(熊倉潤/中公新書)

 中国政府による人権侵害が問題になっている地域の現代史概説書である。中国北西部の広大な新疆ウイグル自治区は、かつて西域と呼ばれたシルクロードの地だ。この地が現在なぜ中国なのか、ちょっと不思議な気がする。シルクロードや中央アジア史は私の関心領域なので、この地域の古代からモンゴルの時代までの様子は何となくイメージできる。だが、その後の歴史は私にはぼんやりしている。

 第二次大戦後の混乱、共産党統治の始まり、文革時代、改革開放、そして習近平時代――そんな流れの新疆ウイグル自治区の現代史を読んで、暗澹たる気持ちになった。この70年は共産党による融和的協調路線が次第に強権的弾圧に変容していく歴史である。

 2年前、中国で発禁になった『ウイグル人』という歴史書の日本語版を読んだ。原著は天安門事件が起きた年(1989年)に出版され、すぐに発禁になったそうだ。その時代以降、状況はさらに悪化し、ウイグル人への弾圧は激しくなっている。ウイグル人の言語や宗教を規制し「中華民族」に改変していこうとする様子を著者は「文化的ジェノサイド」と表現している。

 本書には、昨年末(2021年12月19日)に放送されたNHKの「中国新世紀 第5回“多民族国家”の葛藤」というテレビ番組の内容紹介が2カ所ある。一つは「親戚制度」というおぞましい密告制度の紹介、もう一つは中国のウイグル人は幸福で自由に暮らしているという捏造的プロパガンダの紹介である。

 私はこの番組を観ていなかった。ネット検索するとNHKオンデマンドに入っていたので、本書読了後、すぐに視聴した。かなり衝撃的な内容だった。本書理解の一助になったが暗然とする。

 中国がハイテクを駆使した監視社会になりつつあることは承知しているが、それに加えて「親戚制度」という人海戦術の監視体制を構築していることに驚いた。もともとは、高齢者・障害者など社会的弱者を公務員の「親戚」ということにして支援する制度だそうだ。新疆ウイグル自治区では、110万人以上の政府職員がウイグル人の「親戚」になり、その家庭に入り込んで食事を共にし、情報収集をしているそうだ。まるで安部公房の『友達』のような悪夢の世界である。

 21世紀の世界に、オーウェルの『1984年』をも凌駕しそうな独裁監視社会が出現しようとしている……