『イスラム世界の発展』(本田實信)は言語の歴史書だ2022年06月25日

『イスラム世界の発展(ビジュアル版世界の歴史6)』(本田實信/講談社)
 『ビジュアル版 イスラーム歴史物語』を読んだのを機に、似た体裁の次の概説書を読んだ。

 『イスラム世界の発展(ビジュアル版世界の歴史6)』(本田實信/講談社)

 世界史叢書1冊である本書の刊行は37年前の1985年、入手したのは半年前である。半年前に読んだ『世界史を変貌させたモンゴル』(杉山正明)で、ペルシア語文献にもとづく研究を進展させた先達研究者として本田實信を高く評価していた。本田實信に興味をいだき、読みやすそうな本書を見つけてネット古書店で入手した。

 杉山氏の紹介によれば本田實信は主にフレグ・ウルス史を中心にモンゴルの国家制度を研究した人だそうだ。だが、本書はイスラム史の概説書である。ムハンマド登場の7世紀から17世紀頃までの約1000年のイスラム世界を概説している。

 本書の第1章から第6章までのタイトルは「イスラム世界の誕生」「イスラム世界の成立」「イスラム世界の変容」「イスラム世界の分解」「イスラム世界の再編」「イスラム世界の完成」である。誕生・成立・変容・分解・再編・完成という言葉を並べるとイスラム史の大きな流れをつかめる気がする。ちなみにラストの「完成」ではシーア派イランとオスマン帝国を概説している。

 本書で印象深いのは言語に関する解説である。ムハンマドはアラブ人でコーランはアラビア語だから、イスラム世界の出発点はアラビア語である。時代とともにペルシア語、チャガタイ・トルコ語、オスマン・トルコ語などがイスラム世界に普及していく。その様子が興味深い。

 歴史地図を言語で色分けすればわかりやすくなりそうに思えるが、そんなに単純な話ではない。同じ地域でも支配者と民衆の言語が異なることは多いし、公文書と日常語が異なる場合もある。それぞれの言語への人々の愛着や反発もさまざまだ。

 文化や社会への目配りもある本書を読んで、言語の変遷と歴史の移ろいとの絡み合いへの興味が深まった。