シアターコクーンの『パンドラの鐘』は戦争を想起する芝居2022年06月08日

 シアターコクーンで『パンドラの鐘』(作:野田秀樹、演出:杉原邦、出演:成田凌、葵わかな、前田敦子、玉置玲央、大鶴佐助、柄本時生、片岡亀蔵、南果歩。白石加代子、他)を観た。

 この公演は「NINAGAWA MWMORIAL」と謳っている。シアターコクーンは、1999年に蜷川幸雄演出でこの作品を上演しているからである。23年前の初演は異例の事態がニュースになったそうだ。同じ時期に同じ作品を野田秀樹演出で世田谷パブリックシアターでも初演したのだ。二人の演出家による同時初演という競演になったのは、蜷川幸雄から作品執筆依頼を受けた野田秀樹が、自分が演出予定で執筆中の作品でもいいかと冗談半分で返答すると、蜷川幸雄が即座にOKしたからである。

 私は23年前、そんなニュースは知らなかった。最近になってその事情を知り、『パンドラの鐘』が名作だとも知った。戯曲を読みたいと思ってネット古書に注文したが、観劇日までに入手できなかった。

 事前に内容を知らずに観たこの芝居、とても面白かった。遺跡(墳墓)を発掘している現代と、その遺跡が作られた時代(古代)が交錯する展開で始まる。よくある仕掛けと思って観ていたが、途中から意外な展開になる。非常に驚いた。

 もちろんリアリズムの芝居ではないが、実にいろいろなものが盛り込まれている。道成寺、蝶々夫人、2・26事件、長崎原爆、天皇制……これらが絡み合って古代と現代が融合していく舞台である。

 この公演が決まったのはロシアのウクライナ侵攻前のはずだが、いま起きている戦争を連想せざるを得ない場面が随所にある。人間の表現活動において、いつの時代でも戦争は普遍的な課題ということだと思うが……。