『現代思想』の臨時増刊「ウクライナから問う」を読んで暗い気分2022年06月06日

『現代思想 6月臨時増刊号 ウクライナから問う』(青土社)
 1週間ほど前『現代思想 6月臨時増刊号 ウクライナから問う』を購入した。全382ページ2段組(一部3段組)活字びっしりの厚い雑誌である。42編の記事が坦々と並んでいる。ウクライナの歴史への関心から数編の記事を読むつもりで購入したが、フラットな目次を眺めているうちに全編に目を通そうという気になった。

 私は雑誌を購入しても、すべての記事を読むことはほとんどない。だが、この臨時増刊号は意を決して最初のページから読み始め、何とか最後のページまで読み終えた。流し読みになってしまった記事もあるが、ぐったり疲れた。消化しきれず、頭の中がモヤモヤしている。

 全42編のうち対談が1編、インタビュー(翻訳)1編、文献抄訳紹介が1編、他の39編はウクライナを巡る評論(内3編は翻訳)である。

 執筆者は二人のジャーナリスト以外はすべて研究者のようだ。大半が私には未知の人で、その専門分野は多岐にわたる。史学・政治学・社会学・宗教学・文学などの研究者がそれぞれの知見をふまえて現在進行形の戦争を論じている。ほとんどの記事の文末には執筆年月日の記載があり、2022年4月下旬の日付が多い。開戦から約2カ月の時点で研究者たちが何を考えていたかが伝わってくる。

 巻頭の2編の翻訳記事は現地の作家と社会学者の文章で、生々しい。21世紀になって第二次大戦を追体験しているような落ち着かない気分になる。

 多様な文章をまとめて読んで、頭の中の整理がついていないが、世界が困った状況になっていることはわかる。プーチンの愚行の背景がわかっても、それで物事が明解になるわけではない。国連でのロシア非難決議を棄権した非欧米の国々の事情や状況を考えると、ウクライナが勝ってロシアが撤退すればメデタシ・メデタシとなるほど単純な話ではないとも思えてくる。世界の課題は根深い。

 本書によって、ドゥーギンという怪しげな人物を初めて知った。ネオ・ユーラシア主義を唱える論者である。プーチンへの思想的影響がどれほどかは不明のようだが、ヨーロッパの新右翼にも関わりがあるらしい。本書の論考のうちの6編がドゥーギンに言及していた。戦争を歴史や文化などの観点で考えていくと、「思想」とはつくづくやっかいなものに思えてくる。

 しかし、「戦争」は人間に「考える」ことを迫る作用がある。