大阪版ブレヒト劇『てなもんや三文オペラ』はアパッチの話だった2022年06月27日

 パルコ劇場で『てなもんや三文オペラ』(原作:ブレヒト、作・演出:鄭義信、出演:生田斗真、ウエンツ瑛士、他)を観た。ブレヒトの高名な音楽劇『三文オペラ』を大胆に大阪弁に翻案した芝居である。関西風ギャグも盛り込まれている。

 私が「三文オペラ」という言葉に初めて接したのは開高健の『日本三文オペラ』(1959年刊行)を読んだときだ。高校1年の頃で、まだブレヒトの名は知らなかった。『日本三文オペラ』を読んだのは、中学3年の終わりに読んだ小松左京の『日本アパッチ族』(1964年刊行)が抜群に面白かったからだ。2作品とも戦後の混乱期に大阪砲兵工廠跡地に出没した屑鉄泥棒集団「アパッチ」を題材にしている。その後、アパッチを扱った『夜を賭けて』(梁石日/1994年)が出たが、映画を観ただけで小説は読んでいない。

 今回上演された鄭義信の『てなもんや三文オペラ』は、ブレヒトの『三文オペラ』の舞台を1951年の大阪に移し、主人公らの盗賊団を屑鉄泥棒「アパッチ」に置き換えている。まさに『日本三文オペラ』である。開高健が存命なら喜んだと思う。

 私がブレヒトの戯曲『三文オペラ』を読んだのは数十年前(20代の頃)で、50代の頃(約20年前)に舞台も観ているが、細かい内容はほとんど失念している。それでも、今回の上演が原作を挑戦的に改変しているのはわかった。

 驚いたことに主人公(生田斗真)の花嫁は男性(ウエンツ瑛士)になっている。同性婚である。酒場の女将もゲイだ。関西弁をしゃべる登場人物たちの名は原作通りのカタカナ名である。そんな設定でほぼ原作通りに進行し、不自然さは感じなかった。こういう設定もアリだと感心した。

 ラストは大幅に変わっている。この上演台本に今年2月に始まったウクライナ侵攻が影響しているかは不明だが、戦後11年の大阪の情景に反戦のメッセージを色濃く反映させている。

 この舞台のタイトルからは『てなもんや三度笠』を連想するが、若い観客は知らないだろうなあと思った。また、舞台にダイハツのミゼット(おそらく本物)が何度も登場し、感動した。ミゼットと言えば『やりくりアパート』のコンちゃん(大村崑)・ササやん(佐々十郎)のCMである。これも、若い人にはわからないノスタルジーである。