モンゴル史研究家・杉山正明氏はギボンを評価していた2021年12月25日

『世界史を変貌させたモンゴル』(杉山正明/角川叢書/2000.12)
 杉山正明氏の『モンゴルが世界史を覆す』に続いて次の本を読んだ。

 『世界史を変貌させたモンゴル』(杉山正明/角川叢書/2000.12)

 全3章の本書は次の3点に関する専門的な論考である。

 (1) 世界地図「混一疆理歴代国都之図」などの地図
 (2) カラ・コルムと大都
 (3) モンゴル時代史研究の過去・現在・未来

 大元ウルス(元朝)時代の世界地図をベースに李朝朝鮮で1402年に作成され世界地図「混一疆理歴代国都之図」に関しては、『モンゴルが世界史を覆す』でも言及していたが、それをより詳細に検討している。ヴァスコ・ダ・ガマの「インド航路開拓」より1世紀以上前のモンゴル時代に作られた地図には「海に囲繞されたアフリカ」が描かれている。この時代にアフロ・ユーラシア(アフリカ大陸+ユーラシア大陸)という世界認識があったのだ。実に興味深い。

 (2)の大都に関する論考は私には専門的すぎて難しかった。あとがきには、大学の研究報告に収録したものに手をくわえたとある。素人には難しくて当然かもしれない。

 モンゴル研究の状況をレポートした(3)には、門外漢の私が知らない研究者の固有名詞が頻出する。だが、外野スタンドから研究者たちの奮闘を眺める面白さがある。ギボンとペリオへの言及が印象に残った。

 私はギボンの『ローマ帝国衰亡史』をとりあえずは読了しボチボチ再読中であり、今年1月には 『ギボン自伝』も読だ。要はギボン・ファンである。西欧中心史観の転換を提唱する杉山氏は、18世紀の啓蒙歴史家ギボンには好意的で、次のように述べている。

 「イギリスでは、かのエドワード・ギボンが『ローマ帝国衰亡史』のなかでチンギス・カンにはじまるモンゴル帝国の歴史に、なみなみならぬ造詣を披歴している。とりわけ、モンゴル帝国についてのギボンの発言は、いまの眼でも肯くところが多々あり、歴史家としての彼の力量・センスがやはり尋常でなかったことを十分にしのばせてくれる。」

 私は『ローマ帝国衰亡史』を読んでいて、ギボンが「元寇」にまで言及しているのに驚いた記憶があり、杉山氏の評価を読んで少しうれしくなった。

 ペリオはシルクロード関連の本でよく目にするフランスの研究者だ。漢文を読解できたので、敦煌文書発見の際には価値のあるものを選出して持ち帰った(一応、合法に)という話を読んだことがある。モンゴル研究にはポリグロト(多言語に通じた人)であることが求められ、ペリオもポリグロトだった。だが、杉山氏はペリオには辛辣で、次のように述べている。

 「ペリオの仕事は、考証のための考証といった域を永遠に出ないところがある。(…)歴史の大勢や全体像にかかわるような仕事は、ペリオはするつもりもなかったし、あるいは多分できなかった。そういう類の人であった。」

 本書を読むと、モンゴル時代史の研究とは「歴史の大勢や全体像」にかかわる研究だとわかる。

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