シルクロード史は中国史の補完になる2022年02月21日

『シルクロードの文化と日本』(長澤和俊/雄山閣/1983.12
 『張騫とシルクロード』に続いて、同じ著者の次の本を読んだ。

 『シルクロードの文化と日本』(長澤和俊/雄山閣/1983.12)

 約40年前の1980年代初頭からNHKが放映した大型番組『シルクロード』はシルクロード・ブームを引き起こした。長澤和俊(2019年没、享年90歳)はこの番組の委員を務めたシルクロード研究者だ。本書はテレビ番組がきっかけで執筆したそうだ。

 タイトルが示しているように、シルクロードが日本文化にどのような影響を与えているかを概説した書だが、シルクロード全般の解説が叙述のメインである。それをふまえて日本文化への影響を考察している。

 シルクロードを大きく捉えると「草原の道」「オアシスの道」「海上の道」となり、それが栄えた時代は概ねこの順番になる。本書はそのすべてを概説しているが、最も詳細に述べているのは「オアシスの道」であり、それは西域史でもある。

 直前に読んだ『張騫とシルクロード』が漢の時代までの西域史だったが、本書は魏晋南北朝から隋唐に至る時代の西域をかなり詳しく解説していて、中国史の補完になる。

 イスラムの台頭によるササン朝の滅亡が、長安の西域ブームに大きく寄与しているとの指摘に、世界史のダイナミズムを感じた。本書ではソグド商人をかなり詳しく取り上げている。私がソグド人を知ったのは比較的最近だが、40年近く前の一般向け概説書に明解な解説があったのだ。あらてめて自分が勉強不足だったと感じた。

 日本文化へのシルクロードの影響というテーマは茫漠としていて大きい。著者は、江上波夫の「日本古代王朝=騎馬民族説」の検討をふまえて、天皇家による古代日本国家の成立こそが、シルクロード(草原の道)が日本文化におよぼした最初の文化的影響だと述べている。壮大な影響であり、シルクロードが歴史そのものに思えてくる。