大河ドラマの時代考証降板の呉座勇一の『頼朝と義時』2022年02月11日

『頼朝と義時:武家政権の誕生』(呉座勇一/講談社現代新書)
 NHKの大河ドラマは滅多に観ないが、先月から始まった『鎌倉殿の13人』は観ている。初回だけと思って観たのがコミカルな面白さに惹かれ、つい観続けている。鎌倉時代に特に関心はなく、さほどの知識もない。で、次の新書を読んだ。

 『頼朝と義時:武家政権の誕生』(呉座勇一/講談社現代新書)

 著者は数年前のベストセラー 『応仁の乱』 で有名な若手研究者だ。本書「あとがき」で驚いた。呉座勇一氏は『鎌倉殿の13人』の時代考証依頼がきっかけで本書を執筆、「不祥事」で時代考証を降板したそうだ。「あとがき」で次のように述べている。

 〔本書執筆の最中、私の愚行により『鎌倉殿の13人』の時代考証を降板することになった。多くの方の心を傷つけ、多くの関係者にご迷惑をかけた以上、本書の刊行を断念することも考えた。〕

 何があったのだろうと野次馬気分でネット検索した。表面的なことしかわからないが、研究者たちの狭いSNSで誹謗・イジメのようなことがあったようだ。人間社会は十年一日いや千年一日である。

 閑話休題。本書によって頼朝と義時をクローズアップする意味がわかり、あらためてこの時代の面白さを知った。貴族の世が武士の時代が変わる歴史変動の物語である。次の記述が印象的だ。

 〔源頼朝は鎌倉幕府を築いたが、頼朝の自己規制によって幕府は朝廷の下部機関に留まった。朝廷と幕府の力関係を劇的に転換させるには、もう一人の人物が必要だった。それが北条義時である。〕

 半世紀以上昔の受験勉強の頃から北条氏の執権の似たような名前に悩まされ、頭の中でゴチャゴチャしていた。本書によって義時を何とか識別できるようになった。

 だが、大河ドラマへの新たな疑念がわいた。「13人」にウエイトを置くのだろうか。有力御家人13人の合議制は、本書を読む限りではさほどの意義はない。

 むしろ気になるのは源実朝である。本書は実朝を傀儡以上に評価をしている。大河ドラマ後半の重要人物になってしかるべきだと思う。頼朝と政子の子、頼家・大姫の役者は発表されているのに、なぜか実朝が抜けている。まったくの脇役扱いになるのだろうか。かつて、太宰治・小林秀雄・吉本隆明らが魅力的に描いた実朝を三谷幸喜はあえてスルーするのか、気がかりである。