脳科学の知見の面白さが伝わってくる『脳はなにげに不公平』2021年07月25日

『脳はなにげに不公平』(池谷裕二/朝日文庫
 脳科学者の池谷裕二氏が『週刊朝日』に連載しているコラムを集成した文庫本を読んだ。

 『脳はなにげに不公平』(池谷裕二/朝日文庫)

 週刊誌1頁の『パテカトルの万能薬』と題するこのコラムは現在も連載中だが、本書は2012年~2013年のコラムから62編を厳選したもので、2016年刊行の単行本の文庫版(2019年5月刊行)である。

 各コラムは脳科学周辺の最新の科学論文から得た知見をサラリと3ページで紹介するスタイルになっている。数年前に読んだ池谷氏の 『進化しすぎた脳』『単純な脳、複雑な「私」』は歯ごたえのある解説書で頭が疲れたが、本書は小ネタ集の趣で、とても読みやすい。

 最初のコラムのタイトルは「不平等な世界のほうが安定する」である。格差が拡大すると社会不安が増大し、中間層が多い方が社会は安定すると思われるので、このタイトルにドキリする。著者は、全員が1万円ずつを所持する平等社会において平等なルールに基づくランダムにトレードをくり返すと不平等社会に遷移していくシミュレーションを紹介し、次のように述べている。

 《平等さを突き詰めると不平等になるのは、自然なプロセスなのです。でも、多くの人は、この至って当たり前の統計的事実に気づかずに(あるいは意図的に無視して?)、平等主義や民主主義の理想像に憧れます。》

 なんだか格差社会を追認する言説のように見えるが、これは脳回路を構成するシナプスの話で、少数の強いシナプスと大多数の弱いシナプスによって安定した脳回路ができているそうだ。そのまま人間の社会に適用できる話ではない。

 「上流階級ほどモラルが低い?」というコラムも興味深い。これは人間社会を対象にした実験の紹介で、社会的ステータスの高い人ほど「騙してでもいいから、自分に有利に交渉」を進め、下流層の人は率直で正直な交渉をするそうだ。また、下流層の人でも「自分は社会的地位が高い」との前提で行動選択すると非道徳的になっていくそうだ。身も蓋もない話である。

 他にも「ヒトは性善説か?」「自由意思はあるか?」など面白い話題を最新科学の知見によって紹介していて、脳の刺激になる――と思ったが、本書には、脳に刺激を与えることの可否に関する話もある。

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