『大唐の春』で唐の魅力を堪能2020年09月04日

『大唐の春(大世界史4)』(石田幹之助・田中克己/文藝春秋
 半世紀以上前に出た文藝春秋の『大世界史』(全26巻)の第9巻『絹の道と香料の島(大世界史9)』(護雅夫・別枝達夫)に続いて次の第4巻も読んだ。

 『大唐の春(大世界史4)』(石田幹之助・田中克己/文藝春秋)

 『絹の道と香料の島』を読んでいて、既刊の『大唐の春』読了を前提にした記述に何度か遭遇した。シルクロードの最盛期が唐の時代に重なるからである。まだ読んでいない本巻を読まねばと思った。

 この巻が未読だったのには、言い訳がましい理由がある。本巻の著者・石田幹之助には本巻と似たタイトルの『長安の春』という著書がある。昭和の初めに刊行された後、何度も版を改めて刊行された高名な書である。いろいろな本が『長安の春』に言及しているので、何年か前に東洋文庫の増訂版を入手したが、歯ごたえのある本で、パラパラと拾い読みしただけである。『大唐の春』を読む前に、まずは『長安の春』を読まねばと思いつつ年月が経過した。

 今回、『長安の春』はうっちゃたまま『大唐の春』を読むことにした。本書は共著である。石田幹之助が執筆中に病気になり田中克己に手伝ってもらったそうだ。全18章のうち11章が石田幹之助、7章が田中克己の執筆である。本書刊行時(1967年)、石田幹之助は75歳、田中克己は55歳、石田幹之助は芥川龍之介と一高同級の友人だったそうだ。

 本書は三国志の時代から書き起こし、五胡十六国、北朝・南朝、隋などを経て唐が滅亡するまでを描いている。教科書的な通史ではなく、史実を記述しつつ独特なテーマの解説や論評が散りばめられた史談である。当時の小説の人物の言動や伝説の紹介を通して時代を語ったりもしていて、面白く読める。碩学のご隠居さんの自由奔放な歴史談義を拝聴している気分になる。現代との対比に「紅衛兵」や「黒い霧」などが出てきて、刊行時の1960年代を思い出した。

 基本的に漢族と漢族の文化という視点で書かれていてる。匈奴をはじめ多様な「蛮族」の活躍も描かれてはいるが、「蛮族」支配のもとでも「蛮族」は漢族の文化に感化され、同時に漢族の文化は外来の文化を取り込むことでより豊かになっていった、というのが基本ストーリーである。最近は中央ユーラシア視点の本を読むことが多いので、こんなスタンダードな視点がかえって新鮮に見える。

 本書で印象に残るのは唐の風俗の紹介である。「長安の紅白歌合戦」「国際スポーツ競技」「市井の風俗」などの章は、著者が興に乗ってアレコレと語っている風で、面白いし微笑ましい。

 終章で著者(石田)は唐を次のように総括している。

 「唐代の特色は、どこからどこまで、世界的・国際的ということにつきる。政治面においても、軍事面においても、一般文化面においても、徹頭徹尾、世界的・国際的であったという一語につきる。これを裏からいえば、非シナ的・非国民的ということになる。」

 やはり唐は魅力のある時代である。