40年前の「NHK特集・シルクロード」のノスタルジー ― 2020年09月18日
◎40年前には観ていない番組を追体験
今年(2020年)の夏、NHKのBSプレミアムで『シルクロード』を再放送しているのに気づき録画した。録画できたのは全12回のうちの9回で、それを夕食後に一つずつ観た。
この高名な『NHK特集シルクロード』が放映されたのは40年前の1980年、私は31歳の会社員だった。当時、話題の番組だった記憶はあるが、私は観ていない。ロマンあふれる面白そうな番組だろうと思いつつも、そんなロマンに浸る時間の余裕も心の余裕もなかったように思う。
40年の時を隔ててこの古い番組を観て、番組に連動して出版された本を読みたくなり、古書で全6巻を入手して読んだ。録画しそこねた回も観たくなり、NHKオンデマンドで観た。40年前にタイムスリップして『日中共同取材・シルクロード』の追体験である。
◎テレビ放映に並行して書籍も刊行
この番組は、以下のように月1回のペースで放映された。
1 遙かなり長安(1980年4月7日放映)
2 黄河を越えて~河西回廊1000キロ~(1980年5月5日放映)
3 敦煌(1980年6月2日放映)
4 幻の黒水城(1980年7月7日放映)
5 楼蘭王国を掘る(1980年8月4日放映)
6 流砂の道~西域南道2000キロ~(1980年9月1日放映)
7 砂漠の民~ウイグルのオアシス・ホータン~(1980年10月6日放映)
8 熱砂のオアシス トルファン(1980年11月3日放映)
9 天山を貫く~南彊鉄道~(1980年12月1日放映)
10 天山南路 音楽の旅(1981年1月5日放映)
11 天馬のふるさと~天山北路~(1981年2月2日放映)
12 民族の十字路~カシュガルからパミールへ~(1981年3月2日放映)
取材は1979年4月に始まり1980年9月に終了している。取材地は中国国内のみで、外国メディアがシルクロード取材を認められたのはこれが最初だったそうだ。日中共同取材のプロジェクトで、中国人スタッフにとっても西域取材は新鮮だったように見える。
テレビ放映と並行して、取材スタッフ執筆の『シルクロード 絲綢之路』というシリーズ本が日本放送出版協会からほぼ隔月で出版された。
『第1巻 長安から河西回廊へ』(陳舜臣・NHK取材班/1980.4.10)
『第2巻 敦煌―砂漠の大画廊』(井上靖・NHK取材班/1980.6.10)
『第3巻 幻の楼蘭・黒水城』(井上靖・岡崎敬・NHK取材班/1980.8.10)
『第4巻 流砂の道:西域南道を行く』(井上靖・長澤和俊・NHK取材班/1980.10.10)
『第5巻 天山南路の旅:トルファンからクチャへ』(陳舜臣・NHK取材班/1981.1.10)
『第6巻 民族の十字路:イリ・カシュガル』(司馬遼太郎・NHK取材班/1981.3.10)
大半の巻がテレビ番組2回分で1冊になっているが、第2巻は1回分、第5巻が3回分である。放映と出版にタイムラグがないのが立派だ。
◎テレビではわからない話も書籍に載っている
書籍は取材記録や多くのカラー写真に加えて、同行した作家や研究者のエッセイが載っている。また、取材のウラ話の紹介もあり、中国事情を垣間見ることができて面白い。
中国の国営テレビ局・中国中央電視台との共同取材で、事前準備をしたうえでの取材ではあるが、いろいろと不測の困難もあったようだ。軍事施設やミサイル基地があると思われる立ち入り禁止地域を迂回する場面もあるし、中国人カメラマンだけに撮影が許可された場所もある。
この取材の終点はカシュガルのさらに西、アフガニスタンとの国境に近いパミールである。ソ連のアフガニスタン侵攻は1979年12月だから、それからさほど日時は経っていない。国境地帯の緊迫感が伝わってくる取材を読みながら、40年経過しても事態がほとんど変わっていないことに暗然とした。
◎40年前と現在
この番組でシルクロードの古跡や自然に惹かれるのは確かだが、それ以上に40年前の中国の姿を興味深く眺めた。私は西域には行ったことがなく、現在の様子を知っているわけではないが、この番組に映っている中国の姿はいまでは様変わりしていると思われる。
人の話によれば、いまでは、観光地化したシルクロードに玄奘の巨大な石像や張騫の騎馬大像が建ち、世界遺産に登録されたシルクロード全体が巨大なテーマパークの様相を呈しているらしい。
また、この番組で紹介されている多様な少数民族たちがいまも伝統的な暮らしを維持できているかは疑わしい。40年前のこの番組には中国の「初々しい素朴さ」のようなものが反映されているが、現在の中国にそんなものがあるとは思えない。つい最近も、内モンゴル自治区でのモンゴル語教育の問題が報じられたし、ウイグル族への人権侵害も深刻だ。「中華民族」をつくりあげようとする現代中国の姿には危うさしかない。
NHKは、その後もシルクロードの続編をいくつか制作しているようだが、40年前のこの番組にはノスタルジーがある。
今年(2020年)の夏、NHKのBSプレミアムで『シルクロード』を再放送しているのに気づき録画した。録画できたのは全12回のうちの9回で、それを夕食後に一つずつ観た。
この高名な『NHK特集シルクロード』が放映されたのは40年前の1980年、私は31歳の会社員だった。当時、話題の番組だった記憶はあるが、私は観ていない。ロマンあふれる面白そうな番組だろうと思いつつも、そんなロマンに浸る時間の余裕も心の余裕もなかったように思う。
40年の時を隔ててこの古い番組を観て、番組に連動して出版された本を読みたくなり、古書で全6巻を入手して読んだ。録画しそこねた回も観たくなり、NHKオンデマンドで観た。40年前にタイムスリップして『日中共同取材・シルクロード』の追体験である。
◎テレビ放映に並行して書籍も刊行
この番組は、以下のように月1回のペースで放映された。
1 遙かなり長安(1980年4月7日放映)
2 黄河を越えて~河西回廊1000キロ~(1980年5月5日放映)
3 敦煌(1980年6月2日放映)
4 幻の黒水城(1980年7月7日放映)
5 楼蘭王国を掘る(1980年8月4日放映)
6 流砂の道~西域南道2000キロ~(1980年9月1日放映)
7 砂漠の民~ウイグルのオアシス・ホータン~(1980年10月6日放映)
8 熱砂のオアシス トルファン(1980年11月3日放映)
9 天山を貫く~南彊鉄道~(1980年12月1日放映)
10 天山南路 音楽の旅(1981年1月5日放映)
11 天馬のふるさと~天山北路~(1981年2月2日放映)
12 民族の十字路~カシュガルからパミールへ~(1981年3月2日放映)
取材は1979年4月に始まり1980年9月に終了している。取材地は中国国内のみで、外国メディアがシルクロード取材を認められたのはこれが最初だったそうだ。日中共同取材のプロジェクトで、中国人スタッフにとっても西域取材は新鮮だったように見える。
テレビ放映と並行して、取材スタッフ執筆の『シルクロード 絲綢之路』というシリーズ本が日本放送出版協会からほぼ隔月で出版された。
『第1巻 長安から河西回廊へ』(陳舜臣・NHK取材班/1980.4.10)
『第2巻 敦煌―砂漠の大画廊』(井上靖・NHK取材班/1980.6.10)
『第3巻 幻の楼蘭・黒水城』(井上靖・岡崎敬・NHK取材班/1980.8.10)
『第4巻 流砂の道:西域南道を行く』(井上靖・長澤和俊・NHK取材班/1980.10.10)
『第5巻 天山南路の旅:トルファンからクチャへ』(陳舜臣・NHK取材班/1981.1.10)
『第6巻 民族の十字路:イリ・カシュガル』(司馬遼太郎・NHK取材班/1981.3.10)
大半の巻がテレビ番組2回分で1冊になっているが、第2巻は1回分、第5巻が3回分である。放映と出版にタイムラグがないのが立派だ。
◎テレビではわからない話も書籍に載っている
書籍は取材記録や多くのカラー写真に加えて、同行した作家や研究者のエッセイが載っている。また、取材のウラ話の紹介もあり、中国事情を垣間見ることができて面白い。
中国の国営テレビ局・中国中央電視台との共同取材で、事前準備をしたうえでの取材ではあるが、いろいろと不測の困難もあったようだ。軍事施設やミサイル基地があると思われる立ち入り禁止地域を迂回する場面もあるし、中国人カメラマンだけに撮影が許可された場所もある。
この取材の終点はカシュガルのさらに西、アフガニスタンとの国境に近いパミールである。ソ連のアフガニスタン侵攻は1979年12月だから、それからさほど日時は経っていない。国境地帯の緊迫感が伝わってくる取材を読みながら、40年経過しても事態がほとんど変わっていないことに暗然とした。
◎40年前と現在
この番組でシルクロードの古跡や自然に惹かれるのは確かだが、それ以上に40年前の中国の姿を興味深く眺めた。私は西域には行ったことがなく、現在の様子を知っているわけではないが、この番組に映っている中国の姿はいまでは様変わりしていると思われる。
人の話によれば、いまでは、観光地化したシルクロードに玄奘の巨大な石像や張騫の騎馬大像が建ち、世界遺産に登録されたシルクロード全体が巨大なテーマパークの様相を呈しているらしい。
また、この番組で紹介されている多様な少数民族たちがいまも伝統的な暮らしを維持できているかは疑わしい。40年前のこの番組には中国の「初々しい素朴さ」のようなものが反映されているが、現在の中国にそんなものがあるとは思えない。つい最近も、内モンゴル自治区でのモンゴル語教育の問題が報じられたし、ウイグル族への人権侵害も深刻だ。「中華民族」をつくりあげようとする現代中国の姿には危うさしかない。
NHKは、その後もシルクロードの続編をいくつか制作しているようだが、40年前のこの番組にはノスタルジーがある。
最近のコメント