全共闘テーマの『飛龍伝2020』を観た2020年02月09日

 新国立劇場中劇場で『飛龍伝2020』(作:つかこうへい、演出:岡村俊一、出演:菅井友香、石田明、味方良介、他)を観た。

 主演の菅井友香は欅坂46のメンバーだそうで、観客に若い男性客が多いのが新鮮だった。AKB48も乃木坂46も欅坂46も区別がつかない私のような高齢者には場違いかと感じた。だが、私のような高齢者もチラチラ見かけ、不思議な客層だった。

 10年前に62歳で亡くなったつかこうへいは私と同い年である。若いときから活躍して一世を風靡した劇作家・演出家で、同世代のヒーローと言える。だが、私はつかこうへいに同世代意識を感じることはあまりなく、その芝居もさほど観ていない。遠い昔に紀伊国屋ホールで『熱海殺人事件』と『ストリッパー物語』を観ただけである。

 つかこうへいの芝居に才気や面白さを感じたが、私が観たい同世代芝居とは少しズレていると思った。それは同世代へのないものねだりの感情である。つかこうへいは甘い世代意識を突き放した作家だったと思う。

 『飛龍伝』の舞台を観るのは初めてだが、かなり昔に戯曲か小説かで『飛龍伝』を読んだ記憶がある。富田靖子が主演した直後のような気がする。何ともヘンテコなザラついた印象が残った。

 今回観た『飛龍伝2020』は2020年バージョンだが、全共闘テーマという骨格は元と同じである。われわれの世代が学生時代にさまざまな形で体験した全共闘を正面から扱っている。正面から扱うことでパロディにしている。要は茶化しているのだが、茶化しながらも何かを伝えようとしている。「全国40万の全共闘が…」「世界革命を…」など威勢のいい血沸き肉躍る言葉(空語)が舞台を飛び交う。革命のお伽噺のようなこの世界をどうとらえるのかとまどってしまう。

 このパロディ世界に、わが同世代作家の多様な屈折が織り込まれているのは確かである。「革命」の指導者が官房長官となって「桜を見る会」を仕切っているという展開はエンタメに近い(全共闘出身の官房長長官や大臣がいたのは事実ではあるが…)。キレのある集団ダンスやシュプレヒコールにメロドラマのあざとさを挟み、決戦としての「革命」を謳いあげる。ノンストップの目まぐるしい舞台はカーニバルにも見える。若い観客たちは、この舞台に何を感じるのだろうか。ちょっと気になる。

 蛇足だが、舞台で「安保・反対/闘争・勝利」と叫ぶのに違和感がある。「安保・反対」は1960年であり、60年代末の全共闘は「安保・粉砕/闘争・勝利」でなければ雰囲気が出ない。パンフレットに収録されたつかこうへいの文章にも「安保」「粉砕ですよね」のセリフがある。手元にに戯曲がないのでよくわからないが、あえて「安保・粉砕」でなく「安保・反対」にしたのだろうか。

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